日本文化の礎となったモノ・コトの発祥の地をご案内する『あのモノ・コトのうまれたトコロ』。
いよいよ夏の到来を迎えようとしているこの時期にご紹介するのは、避暑リゾートの発祥といわれる軽井沢です。軽井沢を訪れたカナダ人宣教師ショーが、豊かな自然に魅了されて別荘を建てたことが発祥とされています。ショーとの出会いをきっかけに、西洋式ホテルの草分けとして誕生した万平ホテルで、優雅で上質なリゾートステイはいかがでしょうか。緑豊かな森の中に佇む、北ヨーロッパ風の外観が印象的な、日本を代表するクラシックホテルです。(発祥の地については諸説あります。)
自然豊かな高原の町、 軽井沢で
日ごとに日差しは強まり、もう夏はすぐそこ。バカンスの計画は、お決まりだろうか。今回の旅は、軽井沢。1886年に、カナダ人宣教師アレキサンダー・クロフト・ショーが訪れたことから、避暑リゾート発祥の地としての輝かしい歴史が始まった。
澄んだ空気と自然の織りなす景観に魅せられたショーの紹介により、外国人や政財界著名人たちの別荘地・避暑地として発展。1893年には、難所の碓氷峠(うすいとうげ)を越えるためのアプト式(急勾配走行のための特殊なレール機構)機関車による横川~軽井沢間の鉄道が開通し、繁栄を誇るようになる。
その名残りが碓氷第三橋梁、通称「めがね橋」。1892年建造、高さ31m、長さ91m、使用されたレンガは200万個を超えるという日本最大級のレンガ造りの4連アーチ橋であり、高い技術と芸術性が融合した美しさで、国の重要文化財に指定されている。
廃線敷が遊歩道「アプトの道」として整備されたので、橋上を歩いて渡ることもでき、いわば生きる歴史遺産。間近から見上げると、その威容は圧巻だ。
軽井沢駅からは、当時と変わらぬ豊かな自然と古き良き情景を今なお色濃く漂わせている、旧軽井沢エリアをそぞろ歩く。
この辺りには、ショーゆかりの場所が多く、旧軽井沢銀座を通り抜けた木立の中に佇んでいるのは「ショー記念礼拝堂」。宣教師としてショーが1888年に創設した、軽井沢で最初の教会だ。この木造の小さな礼拝堂で、彼は日々祈りを捧げていたのだろう。
今も日曜日には、ミサが執り行われている。前庭にはショーの胸像と記念碑、裏手には復元したショーの別荘もある。
旧軽井沢の迷路のような別荘地の道は、散歩に最適だ。石畳を覆う木々が、木漏れ日をあびて深い緑に染まり、聞こえるのは野鳥の声だけ。宣教師たちがその美しさからハッピーバレーと呼んだ「幸福の谷」。万平ホテルの裏に広がるこの小径は、軽井沢の散歩ルートの定番で、全体を苔で覆われる6月から7月頃が、一年でいちばん美しい。
川端康成が別荘を構え、そこに滞在した堀辰雄が『風立ちぬ』の最終章を書き上げたことでも知られている。当時のまま今も残る石畳には、そんな別荘で過ごした人々の記憶も刻まれているのかもしれない。