歴史とエレガンスが宿る、軽井沢ステイ[避暑リゾート発祥の地]

Cedyna News for Premium Members 7月号より

日本文化の礎となったモノ・コトの発祥の地をご案内する『あのモノ・コトのうまれたトコロ』。
いよいよ夏の到来を迎えようとしているこの時期にご紹介するのは、避暑リゾートの発祥といわれる軽井沢です。軽井沢を訪れたカナダ人宣教師ショーが、豊かな自然に魅了されて別荘を建てたことが発祥とされています。ショーとの出会いをきっかけに、西洋式ホテルの草分けとして誕生した万平ホテルで、優雅で上質なリゾートステイはいかがでしょうか。緑豊かな森の中に佇む、北ヨーロッパ風の外観が印象的な、日本を代表するクラシックホテルです。(発祥の地については諸説あります。)

自然豊かな高原の町、 軽井沢で

日ごとに日差しは強まり、もう夏はすぐそこ。バカンスの計画は、お決まりだろうか。今回の旅は、軽井沢。1886年に、カナダ人宣教師アレキサンダー・クロフト・ショーが訪れたことから、避暑リゾート発祥の地としての輝かしい歴史が始まった。
澄んだ空気と自然の織りなす景観に魅せられたショーの紹介により、外国人や政財界著名人たちの別荘地・避暑地として発展。1893年には、難所の碓氷峠(うすいとうげ)を越えるためのアプト式(急勾配走行のための特殊なレール機構)機関車による横川~軽井沢間の鉄道が開通し、繁栄を誇るようになる。

めがね橋

めがね橋

その名残りが碓氷第三橋梁、通称「めがね橋」。1892年建造、高さ31m、長さ91m、使用されたレンガは200万個を超えるという日本最大級のレンガ造りの4連アーチ橋であり、高い技術と芸術性が融合した美しさで、国の重要文化財に指定されている。
廃線敷が遊歩道「アプトの道」として整備されたので、橋上を歩いて渡ることもでき、いわば生きる歴史遺産。間近から見上げると、その威容は圧巻だ。

ショー記念礼拝堂

ショー記念礼拝堂

軽井沢駅からは、当時と変わらぬ豊かな自然と古き良き情景を今なお色濃く漂わせている、旧軽井沢エリアをそぞろ歩く。

この辺りには、ショーゆかりの場所が多く、旧軽井沢銀座を通り抜けた木立の中に佇んでいるのは「ショー記念礼拝堂」。宣教師としてショーが1888年に創設した、軽井沢で最初の教会だ。この木造の小さな礼拝堂で、彼は日々祈りを捧げていたのだろう。
今も日曜日には、ミサが執り行われている。前庭にはショーの胸像と記念碑、裏手には復元したショーの別荘もある。

幸福の谷

幸福の谷

旧軽井沢の迷路のような別荘地の道は、散歩に最適だ。石畳を覆う木々が、木漏れ日をあびて深い緑に染まり、聞こえるのは野鳥の声だけ。宣教師たちがその美しさからハッピーバレーと呼んだ「幸福の谷」。万平ホテルの裏に広がるこの小径は、軽井沢の散歩ルートの定番で、全体を苔で覆われる6月から7月頃が、一年でいちばん美しい。
川端康成が別荘を構え、そこに滞在した堀辰雄が『風立ちぬ』の最終章を書き上げたことでも知られている。当時のまま今も残る石畳には、そんな別荘で過ごした人々の記憶も刻まれているのかもしれない。

上質さを味わう、 クラシックホテル

本館アルプス館のメインダイニングルーム

本館アルプス館のメインダイニングルーム

軽井沢でショーとその友人が宿泊したのが、万平ホテル(当時は旅籠「亀屋」)。

「西洋料理など知らなかった初代万平は、限られた材料でパンや魚のフライを提供し、懸命にもてなしました。言葉も通じない中での体当たりのサービスにショーたちは感激し、翌年も、またその翌年も『亀屋』に滞在するようになりました」

スタッフからは、ショーとの出会いこそが、西洋式ホテルの草分けを誕生させたというエピソードを聞くことができた。

その体験をもとに時代の変化を予感し、西洋文化ともてなしの流儀を取り入れて改装。外国人ゲストの間で評判となり、やがて政財界人を中心に避暑地としての人気が高まり、当時は社交パーティーや音楽会が毎日のように開かれていたという。

そうして軽井沢とともに時を重ね約130年、滞在客には室生犀星(むろうさいせい)や三島由紀夫などの文化人も多く、ことに有名なのがジョン・レノン。故郷リバプールに似た雰囲気を気に入り、たびたび夏の一時期を過ごしていたのは、よく知られた話だ。

本館アルプス館は、昭和11年築で国の登録有形文化財。メインダイニングルームは、壁面一杯の見事なステンドグラスや、神社仏閣などでも使われる格式高い折上格天井など、ゴージャスでありながら気品にあふれる。朝食時には窓から光が差し込み、また違う表情を見せてくれる。

アルプス館の客室

アルプス館の客室

中庭を中心に、それぞれコンセプトの違う5つの宿泊施設が用意されている。擦りガラスの格子戸がレトロ感あふれ、床の間を配した和洋折衷の独特な雰囲気がノスタルジックなアルプス館は、部屋ごとに違う軽井沢彫りの家具も楽しみのひとつ。
荷物を置いたら、カフェテラスへ。ジョン直伝のロイヤルミルクティーが、リゾートライフをより香り高く演出してくれる。

長野県産虹鱒のムニエル

長野県産虹鱒のムニエル

宵闇が迫れば、メインダイニングルームでのディナー・タイム。内装から調度品までのすべてに、古き良き社交場時代の面影がうかがえる。
このレトロな空間で、代々受け継がれてきたレシピを守り続ける王道フレンチを味わえば、往時にタイムスリップしたかのよう、優雅な時代に思いを馳せる。ロビーからの明かりで輝きを増す、ステンドグラスが美しい。

バー

バー

世界中の賓客をもてなしてきたクラシックな雰囲気のバーでは、多彩なオリジナルカクテルを傾けての特別な時間を持つことができる。

また館内の史料室には、名門としての歴史をあらわす思い出の品々が展示され、格式の高さをも物語っている。ここでは、ホテルに滞在することそのものがリゾートなのだ。

軽井沢町の名所

伝説のフランスパン

伝説のフランスパン

創業当時のフランスベーカリー

創業当時のフランスベーカリー

もちろん町には名所も多く、中でも旧軽井沢銀座通りは、一番人気のスポット。ここには、万平ホテルでベーカーチーフを務めた田村寅次郎が1951年創業し、軽井沢の昔を今につなぐ老舗「フランスベーカリー」がある。
古くから海外の客に愛され、ジョン・レノンもしばしば通っていたという。特に彼が愛したという伝説のフランスパンは人気。

現在のフランスベーカリー

現在のフランスベーカリー

新鮮な空気とおいしい水をベースに、初代の製法を忠実に守った素朴な味わいは、今なおファンを増やし続けている。パンの香ばしい香りが満ちた店内には、イートインスペースもある。

豊かな自然に心をいやされ、観光やグルメも楽しめる、とびきりの避暑地。初代から続く「おもてなしは心なり。ホテルは人なり」の万平ホテルのポリシーは、そのまま軽井沢にも当てはまるのかもしれない。
伝統とエレガンスに満ちたクラシックホテルで過ごすリゾートライフは、本当の上質さとは何かを教えてくれるようだ。

避暑リゾート 発祥の地
長野県軽井沢

昭和初期の万平ホテル

昭和初期の万平ホテル

軽井沢町は、長野県の東端に位置する高原の町。中山道と北国街道との分岐宿として栄え、その西洋に似た気候風土から宣教師ショーが避暑地として高く評価し、世界に紹介した。
1893年には碓氷線が開通し、万平ホテル(当時は亀屋)をはじめとする外国人向けのホテルや別荘が増え、西洋文化が花開く避暑リゾート地として繁栄。現在も「国際観光文化都市」として、四季を通じて来訪する人々を迎えている。文化・芸術・歴史的に価値が高いとされ、2007年には経済産業省の近代化産業遺産に登録された。