日本文化の礎となったモノ・コトの発祥の地をご案内する新シリーズ『あのモノ・コトのうまれたトコロ』。
第2回目は、スポーツやレジャーとしての近代登山発祥の地とされている六甲山です。数多くの登山道がある六甲山は、毎日登れるアクセスの良さも魅力。何より山頂にある天覧台からの晴天の昼景色、見渡す限りに広がる眺望は圧倒的スケールです。またキジが飛ぶ姿のオブジェは記念撮影で人気のスポット。見どころ満載の六甲山、トレッキングで絶景を眺め、観光スポットをめぐり、ゆかりのグルメを堪能する。山歩きの楽しみを味わいつくしてみるのはいかがでしょう。(発祥の地については諸説あります。)
絶景に次ぐ絶景を歩く
近年、日本百名山や山ガールという言葉を、よく耳にするようになった。ブームになるほど気軽に登山を楽しむ人々が増えているのだろう。
そもそも日本では、古代より山はご神体として信仰の対象であり、山頂をめざすのは拝礼が主な目的だったという。今日のような、スポーツやレジャーとしての「近代登山」が始まったのは、明治時代も半ば。3人の外国人パーティが、日本で初めてピッケルなどの専用具を用いて六甲山に登ったことを、その発祥としている。
そんな六甲山は神戸のシンボルであり、地元の人にはとても身近な裏山のような感覚らしい。アクセスが簡単で、多彩な登山コースとロープウェイなどの交通機関が整備され、観光名所も豊富。あらゆる自然の楽しみ方を叶えてくれる存在なのだ。
六甲山観光の玄関口といえば、六甲ケーブル下駅。 六甲ケーブルは、昭和7年に六甲山と神戸市街地を結ぶ足として、六甲越有馬鉄道が建設。車両も駅舎もレトロ感が満載で、目に楽しい。世界でも珍しい、山上側の箱形車と山下側の展望車の2両編成。標高差493m、およそ1.7kmを約10分間で結んでいる。沿線に広がる自然が、おおらかに迎え入れてくれるようだ。
ケーブルカーで登った先、六甲山上駅を出るとすぐそばに、昭和天皇の行幸を記念して名づけられた天覧台がある。見渡す先には、神戸はもちろん大阪の街並みから、遠く紀伊半島まで。一望するダイナミックな景観に、訪れる人々から感嘆の声があがる。
冒頭の写真は、まさしくこの天覧台からの晴天の昼景色。キジが飛んでいる姿のオブジェは、記念撮影に人気が高い。また、この場所は日本夜景遺産スポットのひとつであり、夜の景勝こそがスペシャル。旅の終わりにはぜひ、その夜景も味わっていただきたい。
六甲山には初心者から上級者までレベルに応じて楽しめる、さまざまなトレッキングのコースが用意されていて、早朝にはトレッキングに出発するらしい登山客を多く見かける。コースが整備されていて、初心者でも安全に山歩きができると人気なのが、よくわかる光景だ。
歩き始めれば、土の匂いと草いきれ、吹く風までが自然との一体感を高めてくれる。
山頂に近づくと、六甲高山植物園が見えてくる。スイスのシーニケプラッテ高山植物園と姉妹提携しており、自然に近い状態で高山植物が観賞できる六甲高山植物園では、標高865mの冷涼な気候を生かして、世界の高山植物や寒冷地植物を中心に、自生植物、山野草などの約1,500種を栽培。それぞれの植物を、渓流沿いの湿地やブナの木陰など、環境にあわせて育てている。
中でも、高山の風景を模して岩や石を並べ、植物を配置したロックガーデンは、スイスの山岳地帯を思わせる。岩混じりの大地に張りつくように咲く小ぶりな花々が、いじらしくもいとおしい。
植物園から歩いて約15分、ヨーロッパ風の造りがワクワク気分を盛り上げるのは、異国情緒漂う六甲ガーデンテラスだ。見晴らしの塔をはじめ多数の展望スペースがあり、方角や時間によって異なる表情で楽しませてくれる。また、ショップなども多彩で、季節のグルメやショッピングも楽しめる。
ここで見逃せないのが、“六甲山上に立つ一本の大きな樹”をコンセプトに、2010年に誕生した「自然体感展望台 六甲枝垂れ」。一本の大きな樹のような総檜葺き(そうひわだぶき)の展望台。設計は、数々の受賞歴を持つ建築家・三分一博志氏。天然氷と風を利用した夏の「冷風体験」や、冬の「氷の切り出し」など、六甲山の四季折々の自然を体感できる。
夜になると、建物全体を覆う枝葉をイメージした檜のフレームを、LED照明でライトアップ。幻想的な光のアートは、夜景と並ぶ美しさを誇る。