宇治茶・歴史の色も鮮やかに 日本緑茶発祥の地

Cedyna News for Premium Members 5月号より

今号からスタートする、『あのモノ・コトのうまれたトコロ』。新シリーズでは、日本文化の礎となったモノ・コトの発祥の地をご案内します。

第一回は、日本のお茶文化をめぐる旅。奈良時代に渡来した茶は、時の流れとともに独自の発達を遂げ、日本茶として完成しました。
抹茶、煎茶、玉露を生みだした、緑茶のふるさと・宇治の地を訪ね、800年にわたる歴史散歩を楽しみます。宇治の抹茶は、昔も今も日本のトップブランド。茶の湯を愛好した戦国武将たちの茶会では、独占的に使用されたといいます。(発祥の地については諸説あります。)

神さまとなった、煎茶の祖

日々親しんでいるお茶も、その存在があたり前すぎて、案外と知られていないことが多い。元は中国から伝わり、健康に良いという効用が知られ、鎌倉時代あたりから広まったとされる。

今回フォーカスする、宇治茶の起こりも同じ頃。生育に適していると、京都府南部の山城(やましろ)地域で栽培がはじまった。やがて一大生産地へと育ち、抹茶、煎茶、玉露を生みだして、日本の喫茶文化をリード。2015年には、歴史と文化、美しい茶畑の景観を通じたストーリーが、「日本茶800年の歴史散歩」として日本遺産に認定されている。宇治は、まさにお茶のふるさとなのだ。

まず向かうのは、宇治田原の町。大峰山や鷲峰山、田原川などに囲まれた、豊かな自然が迎えてくれる。江戸時代中期、ここの湯屋谷(ゆやだに)で製茶業を営んでいた永谷宗円(ながたにそうえん)が、15年の歳月をかけて新たに宇治製法を開発。色鮮やかで香り、味ともに優れた緑茶である煎茶を誕生させた。さらに日本中から人が集まる江戸で、「天下一」と名づけて販売。それまで庶民のお茶といえば、茶色で香りも味も粗末なものだったため、宗円の緑の茶は大流行したという。

湯屋谷の、細い谷あいに茶問屋や茶農家が並び建つ様子からは、往時の隆盛が伝わってくるようだ。木洩れ陽のさす中、復元された「永谷宗円生家」が静かに佇む。隣には、「茶宗明神社(ちゃそうみょうじんしゃ)」。地元の氏神である大神宮社に、宗円を茶祖として合祀している。神さまとなってしまったのが、すごい。

お茶は暮らしの豊かな彩り

丸久小山園

丸久小山園

次は抹茶の里、そして玉露発祥の地でもある宇治市小倉へ。ここでは老舗茶舗・丸久小山園の小山一彦さんを訪問、お話をうかがうことができた。

「お茶には、緑茶と紅茶、ウーロン茶があり、製法が違うだけで、茶樹はもともと同じものだということをご存じですか?」
発酵させないのが緑茶、発酵させるのが紅茶、そして発酵を途中で止めたものがウーロン茶なのだとか。加工法によっても、それぞれに多彩な種類がある。

ここ宇治では、中でも抹茶が代表格。足利義満が茶園を開かせた室町時代から、時の権力者や千利休などの茶人に愛され、茶の湯の大成とともに発展してきた。また覆下(おおいした)栽培も、宇治がはじまり。露地栽培の渋みの強い茶色い抹茶ではなく、うま味の強い鮮やかな濃緑の、日本固有の抹茶を誕生させている。

「昔は巨椋(おぐら)池という大きな池があり、そこによしがいっぱい生えていました。そのよしを編んで棚に乗せて上にわらを振り、茶樹に覆いをかけて遮光する工夫(本簀茶園・ほんずちゃえん)を、宇治の茶農家が考えたのです」

丸久小山園の創業は元禄年間というから、ご先祖も覆下栽培に取り組んだひとりなのだろう。

「江戸時代の末期には、小倉の覆下茶園で育った新芽を宇治製法で仕上げることで、甘みとコクの豊かな、最高級緑茶である玉露を生みだしています」

水点(みずだ)ておうす

水点(みずだ)ておうす

話の合間に、その玉露や抹茶をごちそうになった。しみじみと、おいしい。ことに冷水で点(た)てられる「水点(みずだ)ておうす」は、これからの季節にぴったり。暑い夏でも、抹茶を楽しめるように考案されたそうだ。丸久小山園の「水点ておうす」は、特許取得のフリーズドライ製法のため、冷水を注ぐだけで茶筅で細かく泡立つ。

「あまり知られていませんが、玉露を氷で淹れるのもおすすめです。急須に、茶葉と氷を2~3個入れるだけ。氷が解けるとともに、うま味だけが引きだされます」

煎じた後の茶がらも、ほうれん草のようにおひたしにすると、おいしいと教えてもらった。キッチンペーパーに包んで水気を絞り、お醤油をたらり。栄養素が残っているので、からだにもいい。茶葉の種類によって味が違うので、いろいろ試してみたい。

茶に適した宇治小倉の地で、品質本位の茶づくりをモットーに、栽培と製造・販売を手がける老舗丸久小山園。希望者には、抹茶工場の見学も受け付けている(要予約)。

茶房「元庵(もとあん)」

茶房「元庵(もとあん)」

京都市内に戻り、二条城近くの同茶舗の西洞院店、茶房「元庵(もとあん)」へ足を運ぶ。奥に坪庭を望む趣のある店内では、茶のスイーツが人気で、テレビなどの取材も受けている。

写真は評判の「抹茶のロールケーキセット」。フワフワしっとりの生地と、甘味と苦味が合わさった抹茶クリームが、上品なおいしさ。

抹茶の点(た)て方

抹茶の点(た)て方

また抹茶の点て方といただき方や、玉露・煎茶のおいしい淹れ方の基本を手ほどきする教室を開いていて、こちらもなかなか好評のよう。
抹茶の良い点て方は、手首を前後させ泡を立て、中央に泡が盛り上がるように静かに茶筅(ちゃせん)を上げるのが基本。敷居が高いと思われがちなお茶の世界を、もっと自宅でも親しんでほしいと、はじめたという。

近年は、ペットボトルのお茶が一般的になりつつある。それでも、急須にお気に入りの茶葉を入れてゆっくりと蒸らす、そんな心のゆとりに通じるひと時こそが、日々を豊かに彩ってくれるのではないだろうか。

お茶はいつも、日本人の心と暮らしとともにあり、歴史を紡いできた。京都府では、喫茶文化を支え続けてきた宇治茶の、世界遺産への登録をめざしている。令和の世は、日本茶が海外へと飛躍する、エポックメイキングとなるのかもしれない。

お茶の種類と特徴

お茶の種類と特徴
お茶の種類と特徴

「玄米茶」
煎茶や川柳に、高圧で炒った玄米を加えたもの。茶葉のさっぱりした味わいと、炒り米の香ばしい香りを楽しめる。

「ほうじ茶」
煎茶や川柳を強火で焙じたもので、香ばしい香りと淡白な味わいが特徴。カフェインが少ないため、子どもでも飲みやすい。

お茶の種類と特徴

「番茶」
一番茶を摘み取った後の茶園を刈り揃え、古葉を蒸して、そのまま日干しする。さっぱりとした、独特の風味。京番茶とも呼ばれる。

「煎茶」
日本国内で流通する日本茶の、約8割を占めるとされる最も一般的なお茶。日光を遮らずに栽培し、茶葉を蒸して揉みながら乾燥させる。

お茶の種類と特徴

「川柳(かわやなぎ)」
新芽の形状が大きく、煎茶やかぶせ茶のカテゴリーに入らない茶。さっぱりとした風味で、ほうじ茶や玄米茶に使われることも多い。

お茶の種類と特徴

「抹茶(碾茶・てんちゃ)」
よしずやわらなどで覆いをして20日間以上日光を遮り、摘んだ新芽を蒸した後、揉まずに乾かす。その葉肉だけを、石臼でひいたもの。

「玉露」
抹茶と同様に覆下栽培をした新芽を蒸した後、揉みながら乾燥する。うま味が多く苦みが少ないのが特徴で、高級茶の代名詞として知られる。

「かぶせ茶」
玉露と煎茶の中間にあたる。よしずやわらなどで簡単な覆いを数日間茶樹にかぶせ、摘まれた新芽を玉露と同じように製茶したもの。

日本緑茶 発祥の地
京都府宇治田原

永谷宗円(ながたにそうえん)生家

永谷宗円(ながたにそうえん)生家

古くから山城地域と奈良・近江を結ぶ、交通の要衝だった宇治田原。新芽の茶葉を蒸し、焙炉(ばいろ)と呼ばれる器具の上で加熱しながら、手で揉みつつ乾燥させるという、宇治製法の発祥の地だ。それ以前の煎茶は、茶葉の色から黒製と呼ばれていたため、美しい青(緑色)を生む宇治製法は、青製煎茶製法とも称される。
町の総合文化センターには「お茶の資料室」があり、お茶の誕生から現在までの歴史、永谷宗円の足跡などが学べる。

昭和35年に再建された、湯屋谷の「永谷宗円生家」内部には、製茶道具などの資料が展示され、当時の焙炉跡も保存されている。