お茶は暮らしの豊かな彩り
丸久小山園
次は抹茶の里、そして玉露発祥の地でもある宇治市小倉へ。ここでは老舗茶舗・丸久小山園の小山一彦さんを訪問、お話をうかがうことができた。
「お茶には、緑茶と紅茶、ウーロン茶があり、製法が違うだけで、茶樹はもともと同じものだということをご存じですか?」
発酵させないのが緑茶、発酵させるのが紅茶、そして発酵を途中で止めたものがウーロン茶なのだとか。加工法によっても、それぞれに多彩な種類がある。
ここ宇治では、中でも抹茶が代表格。足利義満が茶園を開かせた室町時代から、時の権力者や千利休などの茶人に愛され、茶の湯の大成とともに発展してきた。また覆下(おおいした)栽培も、宇治がはじまり。露地栽培の渋みの強い茶色い抹茶ではなく、うま味の強い鮮やかな濃緑の、日本固有の抹茶を誕生させている。
「昔は巨椋(おぐら)池という大きな池があり、そこによしがいっぱい生えていました。そのよしを編んで棚に乗せて上にわらを振り、茶樹に覆いをかけて遮光する工夫(本簀茶園・ほんずちゃえん)を、宇治の茶農家が考えたのです」
丸久小山園の創業は元禄年間というから、ご先祖も覆下栽培に取り組んだひとりなのだろう。
「江戸時代の末期には、小倉の覆下茶園で育った新芽を宇治製法で仕上げることで、甘みとコクの豊かな、最高級緑茶である玉露を生みだしています」
水点(みずだ)ておうす
話の合間に、その玉露や抹茶をごちそうになった。しみじみと、おいしい。ことに冷水で点(た)てられる「水点(みずだ)ておうす」は、これからの季節にぴったり。暑い夏でも、抹茶を楽しめるように考案されたそうだ。丸久小山園の「水点ておうす」は、特許取得のフリーズドライ製法のため、冷水を注ぐだけで茶筅で細かく泡立つ。
「あまり知られていませんが、玉露を氷で淹れるのもおすすめです。急須に、茶葉と氷を2~3個入れるだけ。氷が解けるとともに、うま味だけが引きだされます」
煎じた後の茶がらも、ほうれん草のようにおひたしにすると、おいしいと教えてもらった。キッチンペーパーに包んで水気を絞り、お醤油をたらり。栄養素が残っているので、からだにもいい。茶葉の種類によって味が違うので、いろいろ試してみたい。
茶に適した宇治小倉の地で、品質本位の茶づくりをモットーに、栽培と製造・販売を手がける老舗丸久小山園。希望者には、抹茶工場の見学も受け付けている(要予約)。
茶房「元庵(もとあん)」
京都市内に戻り、二条城近くの同茶舗の西洞院店、茶房「元庵(もとあん)」へ足を運ぶ。奥に坪庭を望む趣のある店内では、茶のスイーツが人気で、テレビなどの取材も受けている。
写真は評判の「抹茶のロールケーキセット」。フワフワしっとりの生地と、甘味と苦味が合わさった抹茶クリームが、上品なおいしさ。
抹茶の点(た)て方
また抹茶の点て方といただき方や、玉露・煎茶のおいしい淹れ方の基本を手ほどきする教室を開いていて、こちらもなかなか好評のよう。
抹茶の良い点て方は、手首を前後させ泡を立て、中央に泡が盛り上がるように静かに茶筅(ちゃせん)を上げるのが基本。敷居が高いと思われがちなお茶の世界を、もっと自宅でも親しんでほしいと、はじめたという。
近年は、ペットボトルのお茶が一般的になりつつある。それでも、急須にお気に入りの茶葉を入れてゆっくりと蒸らす、そんな心のゆとりに通じるひと時こそが、日々を豊かに彩ってくれるのではないだろうか。
お茶はいつも、日本人の心と暮らしとともにあり、歴史を紡いできた。京都府では、喫茶文化を支え続けてきた宇治茶の、世界遺産への登録をめざしている。令和の世は、日本茶が海外へと飛躍する、エポックメイキングとなるのかもしれない。
お茶の種類と特徴
「玄米茶」
煎茶や川柳に、高圧で炒った玄米を加えたもの。茶葉のさっぱりした味わいと、炒り米の香ばしい香りを楽しめる。
「ほうじ茶」
煎茶や川柳を強火で焙じたもので、香ばしい香りと淡白な味わいが特徴。カフェインが少ないため、子どもでも飲みやすい。
「番茶」
一番茶を摘み取った後の茶園を刈り揃え、古葉を蒸して、そのまま日干しする。さっぱりとした、独特の風味。京番茶とも呼ばれる。
「煎茶」
日本国内で流通する日本茶の、約8割を占めるとされる最も一般的なお茶。日光を遮らずに栽培し、茶葉を蒸して揉みながら乾燥させる。
「川柳(かわやなぎ)」
新芽の形状が大きく、煎茶やかぶせ茶のカテゴリーに入らない茶。さっぱりとした風味で、ほうじ茶や玄米茶に使われることも多い。
「抹茶(碾茶・てんちゃ)」
よしずやわらなどで覆いをして20日間以上日光を遮り、摘んだ新芽を蒸した後、揉まずに乾かす。その葉肉だけを、石臼でひいたもの。
「玉露」
抹茶と同様に覆下栽培をした新芽を蒸した後、揉みながら乾燥する。うま味が多く苦みが少ないのが特徴で、高級茶の代名詞として知られる。
「かぶせ茶」
玉露と煎茶の中間にあたる。よしずやわらなどで簡単な覆いを数日間茶樹にかぶせ、摘まれた新芽を玉露と同じように製茶したもの。