日光山内(にっこうさんない)、二社一寺(にしゃいちじ)とも称される日光の社寺は1999年に世界遺産に登録されています。その中でもっとも有名な「日光東照宮」の境内には国宝8棟、重要文化財34棟を含む55棟の建造物が並び、その豪華絢爛な美しさは圧巻。栃木県日光市のシンボルともいえる観光スポットです。他にも、華厳(けごん)の滝をはじめ、雄大な自然も、多くの人を魅了し続けています。世界遺産フォトグラファー・三田崇博氏も四季折々の違った景観に魅了され、幾度となくこの地を訪れているそうです。
今回は秋の旅をご紹介します。四季の中でも一番雅な姿を堪能いただけるのではないでしょうか。
日光といえば、東照宮
秋が深まり木々が色づきはじめると、もみじ狩りに出かけたくなる。“錦秋の候”という時候の挨拶が生まれるほど、古来から日本人は紅葉に親しみ、名所もまた数多い。中でも栃木県日光市は、世界遺産の社寺をはじめ華厳の滝やいろは坂など、美しい紅葉のビュースポットとして広く知られている。ピーク時には車が動かなくなるほどの渋滞になると聞き、少しだけ早い時期にハンドルを握った。
まずは、日光東照宮へ向かう。江戸幕府初代将軍・徳川家康を神として祀る神社で、現在の社殿群のほとんどが、三代将軍・家光によって建て替えられたもの。自然の地形を生かした境内には、国宝8棟・重要文化財34棟を含む、55棟の建造物がバランスよく配置されている。
改築に際しては、天才とうたわれた名大工・甲良豊後宗広(こうらぶんごむねひろ)を大棟梁に据え、当時の名だたる美術工芸家が集められたという。壁画や彩色などは、狩野探幽(かのうたんゆう)が率いる狩野一門や長谷川派の絵師たちが担当。他にも漆工や蒔絵、石工、仏師などの名工が腕を振るい、彫刻では、和泉忠兵衛(いずみちゅうべえ)、左甚五郎(ひだりじんごろう)らの名前が伝えられている。
いずれも歴史に名を残した匠たちだ。その極みの技をじかに目にするのも、日光東照宮の楽しみ方のひとつといえるだろう。
もともとこの地は、男体山(なんたいさん)を中心とする山岳信仰の聖地。一礼して石鳥居をくぐると、そこから先はもう神域だ。すぐ左手に見えてくるのは、五重塔。高さ36m、極彩色の日本一華麗な五重塔といわれている。
四方には十二支の動物たちが刻まれ、内部にも漆塗りや彩色がきらびやかにほどこされた様は、目にも鮮やか。
普通は正面から撮影するのだが、この時は参道を歩いていると、ふと杉林の間から塔が顔を出した。後ろ姿ではあるが、神々の住む森に囲まれているように感じ、いつの間にか何度もシャッターを切っていた。日光は杉でも有名で、樹齢も長い。常に変わらぬ緑の鎮守の杜は、長い時を、塔も共に守ってきたのだろう。
国の重要文化財に指定されているこの五重の塔は、慶安3(1650)年に小浜藩主・酒井忠勝によって奉納された後、火災にあい、文政元(1818)年に再建された。
初層から4層までは和様の平行垂木なのに対し、1番上の5層部分のみが唐様の扇垂木でつくられている、珍しい塔。心柱を浮かせた懸垂式の免震技術は、東京スカイツリーの制振システムにも応用されているという。
表門を過ぎ、神厩舎(しんきゅうしゃ)の三猿を眺め、一番の見どころだと思う陽明門へ。日光東照宮のシンボル的存在であり、日本を代表するもっとも美しい門とも称される。金と白で彩られた豪華絢爛な門構えは、他に類を見ないもので、ただ目を奪われる。平和への願いがこめられた500種以上の彫刻に覆われ、日が暮れるまで眺めていても飽きない「日暮(ひぐらし)の門」とも呼ばれるが、確かにいつまでも見ていられそうだ。
建物に限らず細部に目を向ければ、陽明門から左右に延びる全長約220mの廻廊の外壁も、見事のひとこと。カラフルな花鳥動物の彫刻に飾られ、描かれた孔雀は、まるで壁から飛び出してくるように見えた。いずれも一枚板に、透かし彫りという立体的な表現技法が使われており、究極の職人技と高い芸術性が共存している。日本最大級の大彫刻25枚が飾られており、こちらも国宝である。
荘厳な本殿の表門である唐門や、前述の左甚五郎作といわれる眠り猫、家康の眠る奥宮(おくみや)など、見どころを語りだせば切りがない。感動は、ぜひご自身で味わうことをお勧めしたい。