あでやかな錦秋をめぐる、日光詣で 日光の社寺

Cedyna News for Premium Members 10月号より

日光山内(にっこうさんない)、二社一寺(にしゃいちじ)とも称される日光の社寺は1999年に世界遺産に登録されています。その中でもっとも有名な「日光東照宮」の境内には国宝8棟、重要文化財34棟を含む55棟の建造物が並び、その豪華絢爛な美しさは圧巻。栃木県日光市のシンボルともいえる観光スポットです。他にも、華厳(けごん)の滝をはじめ、雄大な自然も、多くの人を魅了し続けています。世界遺産フォトグラファー・三田崇博氏も四季折々の違った景観に魅了され、幾度となくこの地を訪れているそうです。
今回は秋の旅をご紹介します。四季の中でも一番雅な姿を堪能いただけるのではないでしょうか。

日光といえば、東照宮

いろは坂途中、展望所からの眺め

いろは坂途中、展望所からの眺め

秋が深まり木々が色づきはじめると、もみじ狩りに出かけたくなる。“錦秋の候”という時候の挨拶が生まれるほど、古来から日本人は紅葉に親しみ、名所もまた数多い。中でも栃木県日光市は、世界遺産の社寺をはじめ華厳の滝やいろは坂など、美しい紅葉のビュースポットとして広く知られている。ピーク時には車が動かなくなるほどの渋滞になると聞き、少しだけ早い時期にハンドルを握った。

まずは、日光東照宮へ向かう。江戸幕府初代将軍・徳川家康を神として祀る神社で、現在の社殿群のほとんどが、三代将軍・家光によって建て替えられたもの。自然の地形を生かした境内には、国宝8棟・重要文化財34棟を含む、55棟の建造物がバランスよく配置されている。

改築に際しては、天才とうたわれた名大工・甲良豊後宗広(こうらぶんごむねひろ)を大棟梁に据え、当時の名だたる美術工芸家が集められたという。壁画や彩色などは、狩野探幽(かのうたんゆう)が率いる狩野一門や長谷川派の絵師たちが担当。他にも漆工や蒔絵、石工、仏師などの名工が腕を振るい、彫刻では、和泉忠兵衛(いずみちゅうべえ)、左甚五郎(ひだりじんごろう)らの名前が伝えられている。
いずれも歴史に名を残した匠たちだ。その極みの技をじかに目にするのも、日光東照宮の楽しみ方のひとつといえるだろう。

日光東照宮 五重の塔

日光東照宮 五重の塔

もともとこの地は、男体山(なんたいさん)を中心とする山岳信仰の聖地。一礼して石鳥居をくぐると、そこから先はもう神域だ。すぐ左手に見えてくるのは、五重塔。高さ36m、極彩色の日本一華麗な五重塔といわれている。
四方には十二支の動物たちが刻まれ、内部にも漆塗りや彩色がきらびやかにほどこされた様は、目にも鮮やか。

普通は正面から撮影するのだが、この時は参道を歩いていると、ふと杉林の間から塔が顔を出した。後ろ姿ではあるが、神々の住む森に囲まれているように感じ、いつの間にか何度もシャッターを切っていた。日光は杉でも有名で、樹齢も長い。常に変わらぬ緑の鎮守の杜は、長い時を、塔も共に守ってきたのだろう。

国の重要文化財に指定されているこの五重の塔は、慶安3(1650)年に小浜藩主・酒井忠勝によって奉納された後、火災にあい、文政元(1818)年に再建された。
初層から4層までは和様の平行垂木なのに対し、1番上の5層部分のみが唐様の扇垂木でつくられている、珍しい塔。心柱を浮かせた懸垂式の免震技術は、東京スカイツリーの制振システムにも応用されているという。

陽明門を挟む廻廊の彫刻

陽明門を挟む廻廊の彫刻

表門を過ぎ、神厩舎(しんきゅうしゃ)の三猿を眺め、一番の見どころだと思う陽明門へ。日光東照宮のシンボル的存在であり、日本を代表するもっとも美しい門とも称される。金と白で彩られた豪華絢爛な門構えは、他に類を見ないもので、ただ目を奪われる。平和への願いがこめられた500種以上の彫刻に覆われ、日が暮れるまで眺めていても飽きない「日暮(ひぐらし)の門」とも呼ばれるが、確かにいつまでも見ていられそうだ。

建物に限らず細部に目を向ければ、陽明門から左右に延びる全長約220mの廻廊の外壁も、見事のひとこと。カラフルな花鳥動物の彫刻に飾られ、描かれた孔雀は、まるで壁から飛び出してくるように見えた。いずれも一枚板に、透かし彫りという立体的な表現技法が使われており、究極の職人技と高い芸術性が共存している。日本最大級の大彫刻25枚が飾られており、こちらも国宝である。

荘厳な本殿の表門である唐門や、前述の左甚五郎作といわれる眠り猫、家康の眠る奥宮(おくみや)など、見どころを語りだせば切りがない。感動は、ぜひご自身で味わうことをお勧めしたい。

文化遺産と自然の営み
ふたつの美しさと出会う、奥日光

紅葉ピーク時のいろは坂

紅葉ピーク時のいろは坂

市街と奥日光を結ぶ「いろは坂」は、その景色のすばらしさから日本の道100選に名を連ねる。標高差は約440m、次々と変化していく紅葉のグラデーションが美しい。下りと上りで合わせて48のカーブがあることから、いろは48音になぞらえて名づけられている。もとは山岳信仰の修行道だったが、今は絶景が目も心も楽しませてくれるドライブウェイとなっている。展望台からの眺めは、大パノラマ。雄大な自然もまた、日光の魅力なのだ。

いろは坂を下りて右折すると、華厳(けごん)の滝に達する。那智の滝、袋田の滝と並ぶ、日本三大瀑布(ばくふ)のひとつ。高さ97mから一気に流れ落ちる豪快さには、ただ圧倒される。色づきはじめた紅葉とまだ残る緑、暗色の岩壁を流れ落ちる真っ白な水が描き出すコントラストは、人知を超えた神の御業(みわざ)のようだ。

新緑の華厳の滝

新緑の華厳の滝

新緑の季節には訪れたことがあったが、紅葉がとても美しいと聞き、いつか見てみたいと思っていた。エレベーターで滝つぼに下りて眺めるのも迫力があっていいが、個人的には展望台からの景色が気に入っている。冬の姿も、雪と氷と水煙で幻想的だ。四季折々の表情が楽しめるのも、さすが名瀑といえるだろう。

日光の美の系譜

「天空の湖」中禅寺湖

「天空の湖」中禅寺湖

凛と澄んだ秋の空気を味わいながら、華厳の滝の水源である中禅寺湖へ車を走らせる。水面の海抜高度1,296mの「天空の湖」。
約2万年前に男体山の噴火によって原形ができたといわれ、北にはその男体山がそびえ、北西には戦場ヶ原が広がる。

中禅寺湖カヌー体験

中禅寺湖カヌー体験

四季折々に美しい姿を見せる中禅寺湖だが、秋の紅葉は圧巻。日本百景にも選定されている。

明治から昭和初期にかけて外国人の避暑地として賑わった歴史から、周囲には各国大使館の別荘が点在。展示館として公開されている建物もあるので、往時の雰囲気が偲ばれる。

中禅寺湖クルーズ船

中禅寺湖クルーズ船

秋の中禅寺湖は、水面に映る紅葉も見どころだ。クルーズ船が出ているので、湖上で風に吹かれながら、絵画のような風景を楽しむのもいいだろう。たまには私もカメラを置いて、一期一会の瞬間を目に焼きつけることにした。

鹿沼組子(かぬまくみこ)麻の葉モチーフ

鹿沼組子(かぬまくみこ)麻の葉モチーフ

湖畔には、伝統工芸である鹿沼組子(かぬまくみこ)とふれあえる「星野リゾート 界 日光」が建っている。鹿沼組子は、日光東照宮造営のために集められた職人が、技を伝えたのが始まりといわれる。釘を使わずに、細くひき割った木に切り込みを入れて組みつける、宮大工の技術のひとつ。
栃木県が日本一の生産量を誇る麻の「麻の葉模様」が特徴だが、花や植物をモチーフに形づくる種類は150以上もあり、組み合わせによってデザインの多様性は限りなく広がる。

星野リゾート 界 日光 「鹿沼組子の間」

星野リゾート 界 日光 「鹿沼組子の間」

その繊細な美しさを、滞在を通して感じられるのが、1日1室限定のご当地部屋「鹿沼組子の間」。障子や掛け軸、体験キットのコースターなどが用意され、伝統文化と現代インテリアとの融合を堪能できる。組子の障子越しに見る中禅寺湖や日光連山は、ひときわ印象深い。

この鹿沼組子のように、日本中から集まった匠たちの美術工芸は土地に根づき、文化として育まれてきた。東照宮に見る息をのむほどの豪華絢爛さは人のつくった美であり、あでやかな錦織りのような紅葉は自然が織りなす美。日光のふたつの美の系譜は、この先も連綿と紡がれてゆくのだろう。

今回登場した作品

工芸「鹿沼組子」

日光に今も残る、日光東照宮をはじめとする社寺を中心に発展した文化のひとつ。細くひき割った木に切り込みを入れ、釘などは一切使わず、手作業での組み合わせで何種類もの模様をつくりあげる。組子細工は木の文化の日本建築の中でも、特別な存在だといえるだろう。
模様の多くは直線や水平、垂直で表現されるが、中には曲線を組み入れたものも。熟練した技術が繊細な美を可能にしている。