神を斎き祀る島 厳島神社へ 広島県廿日市市 厳島神社

Cedyna News for Premium Members 4月号より

日本で唯一、潮の満ち引きのある場所に建つ寝殿造りの社殿群と大鳥居から成る嚴島神社。青々とした海、背景に広がる緑の弥山原始林、燃ゆるような朱赤の厳島神社、その華やかで神秘的な建築美は訪れる人々を魅了しています。四季を通じて国内外から多くの人々が訪れる観光名所です。
世界遺産フォトグラファー・三田崇博氏も何度も訪れたという厳島神社。特に、桜が咲き誇る春先、約1,900本もの桜に囲まれた世界文化遺産の景色は圧巻です。冒頭の写真は、多宝塔と大鳥居を見下ろせる高台から撮影した一枚。宮島はソメイヨシノ、しだれ桜、大島桜に山桜など多品種の桜が咲き誇り、島全体が桜の名所だといいます。大鳥居は令和元年から、約70年振りの大規模改修工事が行われているそう、改修工事後は一層雅やかで神々しい姿を見ることができるでしょう。

『平家物語』描く
清盛ゆかりの地

嚴島神社というより、「安芸(あき)の宮島」といった方が耳慣れているかもしれない。潮が満ちると海に浮かぶように見える建造物群と、背後の自然とが一体となった景観美は、日本三景の一つとして人々に崇められてきた。その普遍的価値を認められて、1996年に世界文化遺産として登録。詣でる人の足は絶えることなく、昔を今に伝え続けている。

この地を訪れるのは、もう何度目になるだろうか。JR宮島口駅からフェリーで10分、すぐにも島が近づいてくる。参拝の前に、ざっと縁起を紹介したい。
嚴島神社は593年創建、その後、安芸守(あきのかみ)の任に就いた平清盛に深く信仰され、1168年に現在のような寝殿造りの社殿が造営されたという。清盛といえば、武士として初めて太政大臣となり、武家政権を打ち立てた、平安時代の象徴的人物。栄華を極めた様は、古典文学『平家物語』をはじめ、数多(あまた)の小説やドラマなどで語り継がれている。

その清盛の手になる嚴島神社の最大の特徴は、海にせり出すように築かれていることだ。「神を斎き祀る島」という語源のように、古くから島そのものが神として信仰されていたので、土地を傷つけるのを憚(はばか)ったといわれている。廻廊(かいろう)で結ばれた社殿群は、国宝や重要文化財ばかり。歴史的にも文化的にも価値が高いのはもちろん、その神々しさでも群を抜いている。澄み渡る清浄の気に、心が鎮められてゆくようだ。

東西の廻廊

東西の廻廊

まずは入り口をくぐり、客(まろうど)神社に拝礼。朱塗りが鮮やかな東廻廊を進み、御本社でも手を合わせる。満潮時なら、廻廊の外はもう青い海。沖合約200メートルの所にそびえ立つ大鳥居は、宮島のシンボルといってもいいだろう。高さ約16メートル、重さ約60トン。実は6本の柱の根元は、海底に埋められているわけではない。重しをはじめとする、さまざまな工夫で、いわば置いてあるような状態らしい。約800年前にこれだけの仕掛けをつくった、先人たちの知恵と匠の技には息をのむ思いだ。

清盛の時代は船で大鳥居をくぐり、嚴島神社を参拝することが順路とされていたと聞くが、干潮時には歩いても渡れる。間近に体感する迫力は、ただ圧巻の一言。ここからが境内なのだと、訪れるものに知らしめている。

西廻廊からは、高舞台が見晴らせる。毎年4月には、ここで清盛によって京の都から伝えられた「桃花祭舞楽」が行われ、多くの観客の目と耳を楽しませる。華やかな装束も見事。3月に行われる、清盛と平家一門の“嚴島神社参詣行列”を再現した「宮島清盛まつり」も平安絵巻を見るようで、春の宮島は時が巻き戻ったかのようだ。

東西の廻廊は、幅約4メートル、長さ約275メートルあるという。東廻廊は、現在改修工事が行われており、残念だが令和3年の「桃花祭舞楽」は一般公開未定、「宮島清盛まつり」は中止が決定しているそうだ。

平安の雅と祈りを今に伝える
聖なる社(やしろ)・安芸の宮島

五重塔

五重塔

社殿を出た後も、被写体には事欠かない。特に和様(わよう)(日本様式)と唐様(からよう)(中国様式)が融合した五重塔は、室町時代中期の創建といわれ、当時の様相を色濃く留めている。
因みに屋根の垂木が平行に組まれているのが和様で、屋根を上に反り上げる軒反りが「唐様」だそうだ。幾度か改修を繰り返しているが、創建時の和唐折衷の姿を今に伝えている。社殿とお揃いのような朱の色がまばゆく、桧皮葺(ひわだぶき)の屋根とのコントラストが美しい。

シャッターを切りつつ、散策を続ける。多宝塔周辺はことに桜が多く、絶好のビューポイントとして知られているため、いつ来ても観光客で賑わっている。

大元公園
大元公園

大元公園

さらに奥へと辿り足を止めたのは、嚴島八景に数えられる大元公園。宮島水族館の奥に位置する静かな公園だ。
入り口には大元神社がありここも古くからの桜の名所で、落ち着いた静けさに満ちていてのんびりと花見を楽しめる。しばし、花に酔いしれよう。

宮島の魅力は、神社だけではない

杓子

帰りのフェリーまでの時間を有意義に過ごすなら、勧めたいのが宮島伝統産業会館。宮島に古くから伝わる伝統と歴史を学べる、体験型観光施設だ。

教室は、しゃもじで有名な宮島だけに杓子(しゃくし)づくり、名物のもみじ饅頭手焼き、伝統工芸の宮島彫りの3つ。土産を選ぶのも楽しいが、思い出を自分の手でつくるのはもっと楽しい。家族には、桜と大鳥居のオリジナルデザインの杓子を贈ることにした。

もみじ饅頭

もみじ饅頭

小腹が空いたら、宮島名物が集まる表参道商店街へ。王道中の王道である「もみじ饅頭」を食べ歩こう。約100年前に誕生したといわれるカステラ生地の素朴な菓子だが、近年ではこし餡だけでなく、チョコレートや抹茶などの多彩な味が登場している。一番人気だというチーズ味を頬張ると、塩気がいい感じだ。続いて熱々焼きたてのクリーム味。ほわっと優しい。次は何味にしようか。
しかし食べ過ぎては、宮島グルメの代表である「あなごめし」が入らなくなる。

絶品のあなごめし

絶品のあなごめし

帰りの電車に乗る前に、宮島口駅近くの「あなごめし うえの」に寄るのが恒例だ。
創業明治34年の老舗で、あなごの骨から取った出汁で味をつけて炊いたご飯の上に、びっしりと蒲焼きを敷きつめた丼は絶品。嚴島に来る度に、舌鼓を打っている。またこの店は、発祥が駅売弁当だっただけに、今も弁当の予約を受け付けている。行きに受け取って、島での昼食にするのもいいかもしれない。

荘厳にして静謐(せいひつ)な大鳥居

大鳥居の夕景

大鳥居の夕景

嚴島神社への最後の挨拶に、御笠浜(みかさのはま)へと向かう。
ここは参道の中でも、幻想的な夕景が見られるスポットとして有名。ここから眺める夕日に輝く海と背後の山、悠然とそびえ立つ大鳥居の姿はこの世のものとは思えぬ美しさで、絶景としかいえない。鳥居とは、神域の入り口を示すもので俗世との結界。まさしく、この島は神域なのだ。二礼二拍手一礼、宿る神に祈りを捧げた。

今回登場した作品

古典文学 平家物語

「祇園精舎の鐘の声……」の書き出しを、知らない人はいないだろう。古文の教科書でおなじみの、古典文学の傑作だ。
成立したのは鎌倉時代とされ、平家の台頭から繁栄、その後の源平の戦いと滅亡までを綴っている軍記物語。平清盛が時代の支配者へと駆け上がり君臨する様から、晩年の出家、逝去までの人生が描かれている。

清盛神社

清盛神社

清盛神社は宮島桟橋から徒歩で15分程度。西の松原と呼ばれる道の先に、平清盛没後770年を記念し昭和29年に創建された。