日本のほぼ真ん中に位置するとされる滋賀県。その中央に日本最大の湖・琵琶湖があります。悠々と水を湛(たた)える琵琶湖、四囲は緑深い山々や田園が広がり、季節の移ろいに織りなす美しい景観が楽しめます。写真家・三田崇博氏が琵琶湖を訪れたのは、緑匂い立つ夏の日。
静寂に包まれた湖畔から、有数を誇る歴史文化遺産を巡る旅となりました。
活力あふれる湖、行き交う水鳥の様を謳った歌をご紹介します。
磯の崎 漕ぎ廻(た)み行けば
近江(あふみ)の海 八十(やそ)の湊に
鵠(たづ)多(さは)に鳴く
(巻三・二七三 高市連黒人=たけちのむらじくろひと)
磯の崎を漕ぎまわり行くと、
近江の海のあちらこちらの港に
たくさんの水鳥が鳴いているよ
日本で唯一の古代湖
世界におよそ20あるといわれる古代湖。日本最大の湖・琵琶湖はそのうちの一つで、日本で唯一の古代湖だ。現在の形となってからは約100万年の歴史を刻むという。
古代湖の特徴は、水生生物の固有種の多さだといわれる。琵琶湖湖岸にも水生植物が多数生育し、魚のすみかとしても最適でニゴロブナやホンモロコ、ビワヒガイなど、たくさんの固有種が生息している。そして水鳥たちの楽園でもある。また貯水量が日本一であり、「近畿の水がめ」などと称されて人々の暮らしを支え続けている。
琵琶湖は昔から水上の重要な交通路として栄えてきた。あちらこちらの港が舟で賑わっていたのだろう。鵠(たづ)とは、鶴や白鷺など大型の白い鳥を指すという。穏やかに揺れる水面。そこに行き交う鳥たちを見ていると、飛鳥時代の官人、高市連黒人が眺めたであろう、たくさんの水鳥が飛来して鳴き声を上げている様が感じられる。当時より活力にあふれた豊穣な湖であったことが伝わってくる。
古代、水鳥は霊力を持つと考えられていたようだ。景行天皇の息子、ヤマトタケルが白鳥になったという伝説も残っている。
景行天皇から二十数代を経た7世紀半ば、天智天皇は飛鳥から近江大津宮(滋賀県大津市)に都を遷した。騒然とした情勢の中、交通の要衝で豊富な産物に恵まれたこの地が、都として制定されたのはある種必然だったのだろうと思う。
数々の歴史ドラマに登場する琵琶湖だが、奈良に住む私は、天智天皇が都と定めた地の大いなる背景に興味を抱き、その息吹のようなものを写真におさめるべく、大津を訪れたのだ。