眉山

Cedyna News for Premium Members 5月号より

古くは万葉の時代から今に至るまで、徳島市のシンボルとして親しまれ続けている眉山(びざん)。昼も夜もパノラマビューを楽しめる山頂からは、晴れ渡る日なら連なる山々のその先に、徳島県最高峰で日本百名山にも認定されている剣山を望むこともできるそうです。
また、四国一といわれる夜景のスポットだともいわれています。写真家・三田崇博氏は新緑が匂い立つ初夏の候にその山頂を訪れました。

眉山の名の由縁ともいわれる歌。
今回ご紹介するのはこちらです。

眉(まよ)のごと
雲居に見ゆる
阿波(あわ)の山
懸けて漕ぐ舟
泊り知らずも
(巻六・九九八 船王=ふねのおほきみ)

眉の形に雲間に見える
阿波の山を目指して漕ぐ舟
泊まる先はどこか知らないが

徳島市のシンボル・眉山(びざん)

紀伊水道

眉山から見渡す紀伊水道。

阿波おどりで知られる徳島。その中心地・徳島市のシンボルが眉山だ。名前の通り、どの方向から眺めても眉のようになだらかな稜線を描く。
「日本の自然100選」に選ばれており、標高約290メートルと高いとはいえない山ながら、見晴らしの良さから観光客だけでなく地元の人にも親しまれている。
山頂へは徳島平野の眺めを楽しめる眉山ロープウェイがおすすめ。徳島市街を眼下に、気持ちのいい空中散歩ができる。

眉山ロープウェイ

眉山ロープウェイ。

ロープウェイや山頂の眉山公園からは、淡路島と四国を結ぶ大鳴門橋や紀伊水道も見渡せる。晴れた日には、遠く紀伊半島の山々まで見えるという。その眉山公園には冒頭の船王の歌が刻まれた万葉歌碑が建つ。

眉山公園の船王の歌碑

眉山公園の船王の歌碑。

この歌は、天平6年  聖武(しょうむ)天皇の難波宮行幸(なにわのみやぎょうこう)時の一首で、ここから眉山と名付けられたともいわれている。だが、大阪市法円坂(ほうえんざか)あたりにあった難波宮から徳島の山が見えたかどうかは疑問で、淡路島のことではないかという説もある。
いずれにしても万葉集で唯一、阿波の名が登場する歌であり、眉山は歌のとおり眉のごとく優美な姿をしている。
眉山はまた、夜景の名所としても知られており、夕方から夜にかけて、刻一刻と変化していく光のページェントを楽しめる。

眉山公園から一望できる
徳島市街の夜景。

徳島市街の夜景

私も撮影のため、ロープウェイで山頂を目指した。日が落ち、照明に浮かび上がった街は星空を圧倒するように輝いていた。そういえば、徳島県は世界トップシェアを誇る「LED王国」だったのだ。
高輝度青色LEDを世界で初めて製品化し、すでにあった他色との組み合わせで照明用の白色発光が可能となり、爆発的に普及したという。

光の八十八ヶ所。

新町川公園LEDギャラリー

新町川公園LEDギャラリー。

新町川水際公園を飾るLEDイルミネーション

地域ブランド確立のため、徳島県は県内において「LEDバレイ構想」の一環として、LEDを効果的に取り入れた場所やモニュメントを「光の八十八ヶ所」として認定を進めている。徳島市内にもLEDのライトアップスポットが点在し、人々を楽しませている。
その一つ、新町川沿いに整備された新町川水際公園を飾るLEDイルミネーションは見事だ。美しい眉山からの夜景にもLEDがひと役買っているに違いない。

阿波人形浄瑠璃を
慈(いつく)しむ徳島

阿波十郎兵衛屋敷

阿波十郎兵衛屋敷。

渦潮で名高い鳴門海峡の向こうは淡路島。歌に詠まれた真の場所かもしれない。この地からかつてもたらされ、今や徳島に欠かせない文化となっているものがある。
淡路人形浄瑠璃から発展した阿波人形浄瑠璃だ。実は、徳島は人形浄瑠璃が盛んで、その中心となるのが徳島市内にある「阿波十郎兵衛屋敷」。館内には浄瑠璃に使用する人形の展示のほか、日本庭園などがある。現在も毎日上演があり、多くの観客でにぎわっている。代表的演目は「傾城(けいせい)阿波の鳴門」。
阿波徳島藩のお家騒動を描くご当地もので、藩の密命を受けて盗賊となり、自分の娘と知らず手にかけてしまう男の悲しい物語だ。
「阿波十郎兵衛屋敷」はモデルとなった坂東十郎兵衛の屋敷跡に建つ。

人形浄瑠璃

三人遣いで操る大きな人形。

淡路の一座が徳島の農村へ赴き広まった人形浄瑠璃。野外での公演だったので、三味線は深く重みのある音色で音量のある太棹三味線に、人形は淡路のものよりひと回り以上大きくなったといわれる。県内には農村舞台が数多く残り、今も地元の人たちの手で公演が行われている。
なぜか心に沁み入る義太夫節と太棹三味線の響き、そして世界でもまれといわれる三人遣いで操る大きな人形の悲哀に満ちた表情。
徳島の人々が四百年以上にわたり、慈しみ守り抜いてきた阿波人形浄瑠璃は、国の重要無形民俗文化財に指定されている。

渦潮の恵みを味わう

大鳴門橋

淡路島と徳島を結ぶ大鳴門橋。

淡路島との間にある鳴門海峡では瀬戸内海と紀伊水道の潮位の関係で、直径20メートルにもなる渦潮が生じることがある。この激流が豊かな海の幸をもたらしてくれる。
春から夏の時期に味わえるのは、サワラやメバル、カサゴ、芝エビ、そしてなんといっても鳴門海峡を代表する魚、マダイだ。

鳴門の渦潮

世界三大潮流の一つ、鳴門の渦潮。

鳴門海峡の堂浦(どうのうら)で水揚げされる一本釣りのブランド魚“うず華(はな)鯛”と呼ばれるブランド・マダイは鯛の王様とまでいわれている。
眉山のある徳島市内にも渦潮でとれたマダイを提供する店は多い。
徳島魚問屋「とゝ喝」もその一つ。“うず華鯛”の刺身と、名物・鯛めし、けんちん蒸しなどが人気の老舗。新鮮な地物のほか、鳴門金時などを使った芋焼酎など、地元食材にとことんこだわっているという。

うず華鯛の刺身

“うず華(はな)鯛”の刺身。

鯛めし

豪快な鯛めし。

この時期のマダイはほんのりピンク色の身をしていることから、季節にあやかり桜鯛とも呼ばれる。激流にもまれ、身の締まり、脂ののりがよく、徳島名産すだちを搾っていただくと、コリコリした歯ごたえと甘さに、ついついお酒がすすんでしまう。

新緑と潮の香りに包まれて
郷土史にふれる旅へ

徳島市街地と吉野川

眉山の向こうに広がる徳島市街地と吉野川。

潮流がもたらした徳島ならではの文化。阿波おどりの陰で幾分かすみがちだが、地域で育んできた特色ある文化は、他にもまだまだたくさんある。
新緑の眉山を訪ね、新たな徳島の魅力を発見してみてはいかがだろうか。