Cedyna News for Premium Members 1月号より

秀麗な山容をなし日本を象徴する富士山。
万葉集にも富士山を詠った多くの和歌が残され、浮世絵をはじめさまざまな絵画作品にも描かれています。美しさを超えた神々しい姿は、写真家・三田崇博氏も決して撮り飽きることはないといいます。

数多い富士山を詠んだ歌から、今回ご紹介するのはこちらです。

富士の嶺(ね)を
高み畏(かしこ)み 天雲も
い行きはばかり
たなびくものを

(巻三・三二一 高橋虫麻呂=たかはしのむしまろ)

富士の嶺があまり高くて畏れ多いので、
天雲さえも通り過ぎるのを
ためらってたなびいていることよ

新年の幕開け
富士礼賛

新元号となって迎える初めてのお正月。めでたい年を祝うべく、多くの人々が富士山のご来光を仰ぐスポットを訪れることだろう。
富士山は古くから霊峰として信仰の対象となってきた。民間伝承で初夢といえば、何といっても「一富士二鷹三茄子」。富士は不死、不二、不尽などとも書かれ、縁起ものの筆頭である。
冒頭は、高橋虫麻呂が富士山を讃えて詠んだもの。万葉集には富士山を詠んだ歌が数多くある。そのなかでも、たなびく雲々を従えた威風堂々とした様を描写したこの歌は、富士山に神そのものを見たかのような虫麻呂の畏敬の念が溢れていて、富士山の美しさを超えた神々しい姿が、今も昔も人々の心を捉えて離さないことを示している。
もちろん風景写真家にとっても、日本一人気のある被写体であることは疑いない。富士山の裾野に移住して、365日毎日撮影する写真家もいるほどだ。
遠方に暮らす私だが、近くを通る際は必ずといっていいほど立ち寄りシャッターを切る。静岡、山梨、神奈川県をはじめ多数の撮影スポットがあり、何処へ何度行っても富士山は撮り飽きることがない。

刻一刻変わる
富士の魅力

富士山の威容がとくに感じられるのは、やはりご来光、日の出の時間帯であろう。
日の出を撮影するには、前日の晩もしくはまだ真っ暗なうちに現地に着いていなければならない。漆黒の闇の中で何時間も待機するのは、好きで選んだ道とはいえ、かなりこたえる。だが、周りが徐々に白み始める時の気持ちの高まりは言葉では表せない。そして、日の出の瞬間。その美しさにただただ見入るばかりである。
表紙の写真は本栖湖からのショット。なだらかな稜線のふもとに朝日が昇る瞬間を捉えたものだ。湖面に延びる金色の光線が、逆光の中にそびえ立つ富士山の美しい姿と呼応したその一瞬だった。寒さに耐え待った甲斐があった一枚である。

神秘的な
パール富士

富士山頂にかかる月

富士山頂にかかる月。パール富士が湖面にも映る。山中湖から見る月はまさに真珠のよう。なぜか富士山から離れるほど月は大きく見える。

富士山の魅力は朝日だけとは限らない。山中湖から見るパール富士もすばらしい。さらに、湖面に映し出される“逆さパール富士”も神秘的な雰囲気を醸し出す。
毎冬、山中湖や河口湖ではイルミネーションや花火の演出もあり、富士山を背景に華やかなイベントも楽しめる。

アイスキャンドルフェスティバル

「アイスキャンドルフェスティバル」は2020年2月15日山中湖で開催予定。こちらに先駆けて山中湖・花の都公園では2019年11月23日~2020年1月5日、山中湖イルミネーション「ファンタジウム」が開催予定。

河口湖・冬花火

「河口湖・冬花火」は2020年1月18日~2月23日の土日に、河口湖畔大池公園をメイン会場として開催予定。

とはいえ、冬の富士山は天気が変わりやすく、裾野は晴れの予報でも山頂は雲のかかっていることも多い。そんな天候に撮影がうまくいかず、何度出直したことか……。

名物・名作を生む富士

駿河湾に浮かぶ富士山

歌川広重が東海道五十三次「由井 薩た嶺」を描いた有名なスポット薩た(さった)峠の展望所から、駿河湾に浮かぶ富士山を望む。

富士山は、その容姿の美しさだけでなく、恵みももたらしてくれる。富士の雪解け水が流れ込む駿河湾は、海底の深さも相まって、多種多様な海の生物を育む豊かな海となっている。特に桜えびは、国内ではここ駿河湾でしか水揚げされない貴重な海の幸だ。

桜えび・磯料理

薩た峠の近くにある、桜えび・磯料理「くらさわや」では、漁期以外でも、駿河湾産桜えびのさまざまな料理が年間を通して味わえる。

最大の水揚げ量を誇る由比の街には桜えびを味わえる店が軒を連ねる。滋味深い海の幸に舌鼓を打つのも、撮影旅行の楽しみのひとつ。歌川広重が「東海道五十三次」で描いた薩た(さった)峠からの絶景とあわせて富士山のもたらす由比の大きな魅力ともなっている。

富士の夕焼けは
広重作品にも描かれている

富士山頂に沈む太陽

富士山頂に沈む太陽。撮影場所は相模湖付近。湖と山々を包み込む夕景とその中心で輝くダイヤモンド富士。湖面のさざなみが夕陽をとらえてなんとも美しい。

広重は晩年、葛飾北斎の「冨嶽三十六景」に挑むかのように「冨士三十六景」を描いている。往時の絵師たちにとっても、富士山は生涯競い合い讃え合う日本一の画題であったのだろう。
初富士を仰ぎ、2020年が良き年であることを願いつつ、心新たに万葉の旅に出かけたい……。