山頂からの眺望はすばらしく、一年を通して登山家が足を運ぶ高見山。
万葉集にも詠まれたというその山を写真家・三田崇博氏が訪れたのは、樹木が氷を纏い、いっそう美しい雄姿を見せるという厳冬時期。樹氷は氷点下5度以下、弱風のもとでなければ生まれないといいます。
高見山が詠まれたという歌はこちらです。
吾妹子(わぎもこ)を
いざ見の山を
高みかも
大和の見えぬ
国遠(くにとほ)みかも
(巻一・四四 石上麻呂=いそのかみのまろ)
わが妻をいざ見ようとしても
いざ見の山とは名ばかりで
山が高すぎるのか
大和が見えない
それとも国が遠くなったのか
冬の自然造形美
高見山の樹氷
三重県と奈良県の県境に位置する高見山。麓から見てその尖ったような山容から“関西のマッターホルン”の愛称で親しまれており、多くの登山客に愛されている。奈良から伊勢に向かう旧伊勢街道にあり、かつては「いざ見の山」とも呼ばれていた。
冒頭の歌は持統天皇の伊勢行幸に従駕した、後の左大臣・石上麻呂の一首。大和に残してきた妻を心に思うことで、旅の不安と緊張を鎮めようとした歌だともいわれている。
そんな高見山の冬の風物詩が樹氷だ。
私は日の出とともに装備を整え、朝食を済ませて雪に覆われた登山道を目指した。標高1248メートルだが、一部急斜面もあり、相応の準備をして臨んだ。駐車場からは片道1時間ほどの行程だが、雪に足をとられるため思っていた以上に時間がかかる。
標高が高くなるにつれて木々が白色に変化していく。冬山の天気は安定しないのだが、この日は晴れ上がり陽に照らされて輝く樹氷と、青空のすばらしさを堪能することができた。シャッターを押すこともしばし忘れ、ただただ自然の美しさに見とれてしまうばかりだった。