Cedyna News for Premium Members 11月号より

新元号「令和」の典拠ともなった『万葉集』は、おもに奈良時代に編纂された日本最古の歌集。千年以上にわたって日本人の間で詠み継がれてきました。
写真家・三田崇博氏とともに万葉ゆかりの地へと赴き、わたしたちが忘れかけている日本の心を再発見する旅に出てみましょう。

今回のご紹介の歌はこちらです。

大君(おほきみ)の
三笠の山の黄葉(もみぢば)は
今日のしぐれに
散りか過ぎなむ

(巻八・一五五四 大伴家持)

三笠の山のもみじは
今日の時雨で散り果てるだろうか

万葉集のふるさと奈良。
詠み継がれる“もみじ”

晩秋の奈良、山々は、見事な紅葉に包まれる…。万葉の旅を始めるならば、まず万葉集のふるさとともいえる奈良を訪ねてみるべきだろう。
上の和歌は万葉集巻八に収載された大伴家持のもの。三笠山の“もみじ”が、今日の時雨で散ってしまうかもしれない、そんな名残惜しさを歌に込めたのだろうか。

ところで万葉集に“もみじ”を詠んだ和歌は80首以上あるが、そのうち「紅葉」としたものはほんのわずかで、ほとんどが「黄葉」と記している。現代の我々からすると、「黄葉」より「紅葉」のほうが視覚的にしっくりくると思うのだが…。

調べてみると、やまとことばの葉の色が変わる「もみち」に漢字をあてる際、中国の「黄葉」を手本にしたことがその理由の一つということである。 いずれにしても、その素晴らしい景色をカメラにおさめるのは、やはり心が躍る。

歴史の跡を色濃く残す、
奈良公園を歩く

秋の色に染まる鷺池と浮見堂

鷺池と浮見堂。春は桜、夏は百日紅、冬は結氷風景、そして秋は紅葉。一年を通して楽しめる。

三笠山の麓に広がる奈良公園南端にある鷺池。池に建つ檜皮葺きの浮見堂は夕方になるとライトアップされる人気スポットだ。
でも、私のお気に入りは早朝の景色。水面を覆い隠していた白い霧の中から、朝日に照らし出されて徐々に徐々にお堂が浮かび上がってくるその情景は実に幽玄である。朝のウォーキングを楽しむ地元の人たちも歩を止めてしばし見入るほどだ。

鷺池から春日大社へ、のんびりくつろぐ鹿たちを眺めながら紅葉の道を散策する。奈良公園の鹿は国の天然記念物にも指定されている。
国家・国民の健康と安泰、皇室の安泰を願うという春日大社は藤原氏(中臣氏)の氏神を祀る神社だが、万葉集に詠まれた花や草木を植栽する萬葉植物園もあり、文化の日には園内の池につくられる水上の浮舞台で、萬葉雅楽会が催される。奈良時代から継承された雅楽の音色と舞踊をぜひ味わっていただきたい。

春日大社の萬葉雅楽会

春日大社にある萬葉植物園では毎年、こどもの日と文化の日に萬葉雅楽会が開催される。
他に庭園喫茶や国宝352点を所蔵する国宝殿などもある。

西の迎賓館、
奈良ホテルで小休止

奈良ホテル

西の迎賓館とも呼ばれた奈良ホテル。和洋折衷様式の内装に対して、外観は堂々たる和風建築の本館。

さて、歴史散策で小休止するには、奈良ホテルがふさわしい。
かつて国賓・皇族の宿泊する迎賓館に準ずる施設だったこのホテルは、今年で創業110周年を迎えるという。

ティーラウンジ

ロンネフェルト・ティーとホテル特製ケーキのセットが人気。

ティーラウンジでは、ドイツの老舗ロンネフェルト社の紅茶が人気だ。
庭園の紅葉を眺めながら由緒ある空間でいただく紅茶の味は格別。ここには実に豊かな時間が流れている。

庭園を彩る紅葉

庭園を彩る紅葉。

千年の都のロマンを
肌で感じる

正暦寺

錦の里、正暦寺。

奈良市近郊では秋の名所にことかかない。市中心部から南東へ向かった山あいにある正暦寺には山内に3000本もの楓がある。
古くから「錦の里」と呼ばれてきただけあり、木々の豊かな緑が黄や赤に色づく様はまさに錦のように美しい。紅葉に続き、秋から冬にかけては1000株以上の南天が赤い実をつけて参道を染めつくすという。

般若寺

コスモス寺、般若寺。

また、飛鳥時代創建と伝わる般若寺では、秋に15万本のコスモスが境内を彩る。石仏群を囲む濃淡鮮やかなピンクのコスモスは、愛らしくて心和む。11月上旬まで見頃だ。

平城宮跡 第一次大極殿

「古都奈良の文化財」構成資産の一つである平城宮跡。1998年の「朱雀門」や「東院庭園」の復原に続いて「第一次大極殿」(写真)が2010年に復原された。広大な古代宮都の中心地に歴史のロマンが感じられる。

さらに、復原された大極殿・朱雀門を中心にした平城宮跡歴史公園もおすすめだ。千年の歴史を刻む奈良の奥深さ、その魅力を伝えるものはそこかしこにある。そして、旅情を紅葉がさらに引き立たせる。

大伴家持のみならず市井の歌人たちも万葉集で愛でた紅葉。
この季節ならではの古都・奈良の歴史ロマン散策を堪能してみてはいかがだろう。