シュガーロードがつなぐ
甘いお菓子と郷土料理

長崎/長崎・諫早・大村

CedynaNews 2019年4月号より

長崎から福岡の小倉まで続く長崎街道は、シュガーロードとも呼ばれ、甘くておいしい名物がたくさんあるらしい…。

そんな噂に心誘われ、今月は長崎の食文化を探訪します。

江戸時代の長崎には、日本で唯一砂糖を輸入していた出島がありました。出島に入ってきた砂糖は長崎街道を通り、京都や大阪、江戸へと運ばれていったそうです。

18世紀以降は毎年1200トン以上、今の金額に換算すると年間24億円相当の砂糖が、出島で取り引きされていたというから驚きです。

砂糖が手に入りやすく、中国や南蛮のお菓子の製法を学ぶことができた長崎では、誰もが知る長崎カステラのような銘菓が生まれ、個性豊かな砂糖文化が根付きました。

岩永梅寿軒の外観

明治35年に建てられた、現在の岩永梅寿軒の外観。
立派な看板は、木造船の底板を使って大正時代に作られたもの

「長崎の人にとって“砂糖をいかに上手く使うか”という思いは、昔も今も強いと思います。砂糖があったおかげで、私共はさまざまなお菓子を作れるようになりました」とお話ししてくださったのは、長崎市にある天保元年創業の御菓子司、岩永梅寿軒のご主人・岩永徳二さん。

店先に並ぶ口砂香(こうさこう)という干菓子も、お梅さんという女性が唐人から教わった中国伝来のお菓子がルーツといわれています。

香ばしさに癒される
長崎の干菓子「口砂香」

長崎の干菓子「口砂香」

岩永梅寿軒の口砂香は、煎り方の異なる粳米のブレンドで
格別の香ばしさを引き出している

煎って粉末にした粳米(うるちまい)と砂糖を混ぜて型打ちした口砂香は、お梅さんにちなんだ梅の形。きめ細かく、ほどけるような口どけで、上品な甘みと煎り米の香ばしさが広がります。

「お米と砂糖で出来ているので、地元では母乳がよく出るようにと出産祝いと一緒にお持ちになる方もおられます。砂糖は脳の発育を助け、人間が活動するためのエネルギー源にもなるんですよ」と岩永さん。

さまざまなお菓子に利用され、そのおいしさの要となってきた砂糖は、まさに甘味料の王様。長崎の人は、砂糖との付き合いが長い分、その魅力を引き出すのが上手だと感じました。

ポルトガル伝来
お茶席を彩る「有平糖(あるへいとう)」

千代結び

おめでたい席で供される有平糖“千代結び”は、リボンのような意匠が可愛らしい

千寿庵 長崎屋は、今や長崎で数軒になってしまったという有平糖を作る和菓子店です。
お茶席で使われる飴菓子のため、定番の“千代結び”以外は、季節ごとの意匠を注文で制作しているといいます。

千代結び

有平糖は、室町時代に宣教師たちが日本に持ってきた南蛮菓子のひとつ。同様に伝来したカステラは長崎、丸ボーロは佐賀、金平糖は北九州で定着し、シュガーロードの銘菓として現在も各地に残っています。

また、有平糖に色や形が似ていることから、床屋の前でクルクル回る円柱形の看板が、かつては“有平棒”と呼ばれていたと、ご主人の井上昌一さんに教えていただきました。

地域に愛される存在
「諫早おこし」

長崎市をあとに、シュガーロードを北上してお隣の諫早市へ。創業以来200年以上、諫早名物のおこしを作り続けている杉谷本舗を訪ねます。

杉谷本舗の外観

杉谷本舗の外観

この地域では、昔から「身おこし・名おこし・家おこし」という言葉があり、おこしは縁起菓子として親しまれてきたそうです。今も病気平癒や赤ちゃんの健やかな成長、家の繁栄を願って贈られています。

諫早おこしの代名詞といわれる黒おこしは、コクのある黒砂糖入り。その歴史は古く、シュガーロードを通る旅人も味わっていたかもしれません。

黒おこし

伝統的な黒おこしのほか、珍しい白おこしや、白砂糖をたっぷりまぶしたピーナツおこしもある

甘くて素朴な郷土の味
「大村ずし」に舌鼓

砂糖がもたらした恩恵にあずかったのは、お菓子だけではありません。長崎では郷土料理にも甘い味付けが好まれ、受け継がれています。

大村ずし

どこかホッとする味わいの大村ずし。甘めではあるが素朴でおいしい

長崎空港がある大村市には、室町時代に誕生した大村ずしがあります。領主の戦勝祝いに農民たちが作ったのが始まりというこの料理は、今もおめでたい席や来客時に欠かせない味として親しまれています。

元祖大村角ずし やまとは、五代続く大村ずしの老舗。ご主人に「砂糖は多いと思いますよ」とお聞きして食べてみると、おっしゃる通り甘めの味わいです。

「砂糖は豊かさの象徴でしたから、出島から砂糖が入ってくるようになって、大村ずしもハレの日の料理として甘くなっていったのだと思います」

店舗

店舗は、錦糸卵を思わせる鮮やかな黄色が印象的

シュガーロードをたどり、砂糖をふんだんに使った長崎ならではの美味と出会った今回。長崎から全国へ発信され、日本料理にも大きな影響をもたらした独自の砂糖文化を感じることができた旅となりました。

掲載している店舗・施設の詳細は
下記HPよりご確認いただけます。

岩永梅寿軒
http://www.baijyuken.com

千寿庵 長崎屋
http://www.s-nagasakiya.com

杉谷本舗
http://sugitanihonpo.co.jp

元祖大村角ずし やまと
http://www.kakuzushi.jp

(掲載の情報は、2019年3月1日現在のものです)

取材後記 取材後記
眼鏡橋

岩永梅寿軒さんの取材開始前に少し時間があったため、近くにある眼鏡橋に立ち寄りました。修学旅行生にも人気のスポットです。

ステンドグラス

岩永梅寿軒さんの店内にステンドグラスを発見!長崎らしいですね。

角ずし

元祖大村角ずし やまとさん特注のもろぶたで作る角ずしは全部で約7㎏の重さがあるそう。撮影中には、ご主人の永田さんが頑張って持ち上げてくださいました‥!ありがとうございました!

もぐもぐタイム

撮影後はお皿に分けていただき、みんなで実食。
ほんのり甘くて、とっても美味しかったです!

長崎銘菓「かすどーす」

永田さんから噂を聞いていた長崎銘菓「かすどーす」を飛行機に乗る前にギリギリでゲットしました。
帰ってから食べてみると、玉子とハチミツの風味を楽しめる、濃厚な味わいでした!甘いものが好きな方にオススメです。