「色」で巡る長崎の旅

長崎・長崎市

CedynaNews 2019年3月号より

ガラス工房・瑠璃庵によって復刻された長崎チロリ

ガラス工房・瑠璃庵によって復刻された長崎チロリ

今月と来月は、2018年の世界遺産の登録で再び注目が集まる長崎へ。
今回はこの地ならではの「色」を求めて、異国情緒あふれる港町を巡ります。

江戸時代に日本で唯一西洋に開かれた「出島」があり、中国との貿易も行われていた長崎。びいどろ(※)と呼ばれていたガラスの製法も中国から伝わり、すでに1670年には、その担い手である”びいどろ吹き“がいたことが長崎奉行所の記録に残っているそうです。

(※)びいどろ=ポルトガル語でガラスを意味するヴィドロ(Vidro)が語源。

時を超えて甦った
瑠璃色の長崎チロリ

制作中のチロリ。ガラスを繋ぎ、注ぎ口を成形していく

制作中のチロリ。ガラスを繋ぎ、注ぎ口を成形していく

瑠璃庵は、一度は衰退してしまった長崎のびいどろを「なんとかせんばいかん」と復活させ、発信し続ける手作りガラスの工房です。

店内でひときわ目を引く長崎チロリは、代表の竹田克人さんが、文献をもとに復刻させた江戸期の冷酒用急須。深い海を思わせる瑠璃色は独自の調合によるもので、“瑠璃庵ブルー”と呼ばれています。吹きガラスの技術を駆使して作る、細長く繊細な注ぎ口も魅力的です。

長崎チロリやステンドグラスについて語る、代表・竹田克人さん

長崎チロリやステンドグラスについて語る、代表・竹田克人さん

「実際にお酒をつぐ時の姿は美しく、緊張感もあって、これを好んで使った江戸人の艶っぽさを感じることができる器だと思います」

当時の長崎チロリも青だったそうで、竹田さんはその理由をこう分析します。
「冷酒用なので、青で涼感を演出しているのでしょう。また、藍染めに見られるように日本人好みの色であることも理由の一つだと思いますね」

瑠璃庵ではステンドグラスも手がけており、大浦天主堂(国宝、世界遺産)の修復にも携わっています。

大浦天主堂修復時のステンドグラス

大浦天主堂修復時のステンドグラス

この教会では、吹きガラスの古い技法で作られるフランス製のアンティーク・ガラスが使われています。「人が吹くことによって生まれる微妙な色ムラや厚みのムラが、面白みや味わいになる」のだとか。
歴史的な価値のある大浦天主堂のステンドグラスもまた長崎の色。瑠璃庵と併せて訪ねてみてはいかがでしょうか。

吉祥と魔よけを担う
ベンガラ色の崇福寺

1646(正保3)年に創建された、崇福寺の本堂・大雄宝殿(国宝)

1646(正保3)年に創建された、崇福寺の本堂・大雄宝殿(国宝)

江戸時代のはじめ、キリスト教信者でないことを示すために、長崎に住んでいた唐人たちは中国式の仏教寺院を相次いで建立しました。

なかでも崇福寺は、2つの国宝建造物を有する、ぜひとも立ち寄りたいスポット。境内には、太陽の色であり、中国では幸福や吉祥、魔よけの象徴とされるベンガラ(※1)色の赤い建造物が並びます。

(※1) ベンガラ=黄味を帯びた朱色の粉末塗料。

現在の三門は3代目。
1849(嘉永2)年に日本人棟梁の手によって再建された

鮮やかな朱と丸みのある形が印象的な三門をくぐり、石段を上がると、第一峰門(国宝)が現れます。こちらでは、軒裏一面に描かれた極彩色の吉祥文様(※2)も見逃せません。

その先にも本堂の大雄宝殿(国宝)、関帝を祀る護法堂など、ベンガラ色の建造物がずらり。細部に至るまで、人々の吉祥への想いが込められているようでした。

(※2) 吉祥文様=縁起のいい動植物などを描いた図柄。

第一峰門(国宝)の軒裏に描かれている吉祥文様

第一峰門(国宝)の軒裏に描かれている吉祥文様

とまらないおいしさ
玉子サンドの黄色

続いて、長崎の色を食べ物でも楽しみたいと、路面電車に乗って出かけます。店外にまでいい匂いが漂う山喜食品は、多い時は一日400~500本焼くという玉子焼の専門店。

玉子サンドは店頭販売のみなので、行った人だけが味わえる旅のお楽しみ

玉子サンドは店頭販売のみなので、行った人だけが味わえる旅のお楽しみ

砂糖入りの玉子焼「本玉」をはさんだ玉子サンドは、地元客はもちろん、観光客にも話題となっている人気商品です。鮮やかな黄色が食欲をそそり、シャキッとした甘酢漬のキャベツがアクセントになっています。

1本1本手作業で焼かれる玉子焼。山喜食品の玉子焼はお取り寄せも可能

1本1本手作業で焼かれる玉子焼。
山喜食品の玉子焼はお取り寄せも可能

なめらかな食感と美しい色味の秘密は、新鮮な卵を1個1個手で割り裏ごしをした卵液と、地元多良山系の湧水。蒸しながら焼く特別な鍋を使っているので、ふんわり感も違います。

さっぱりとした優しい甘さで、ひとつ食べるともうひとつ食べたくなる、あとを引く味わいでした。

漆黒の闇と光りが紡ぐ
夜景の美しさを堪能

とっぷりと日が暮れたら、車かロープウェイで1000万ドルの夜景と名高い稲佐山へ。3階建ての山頂展望台から、三方を山に囲まれた長崎の市街地が一望できます。

日本三大夜景に数えられる、稲佐山からの夜景はロマンティック

日本三大夜景に数えられる、稲佐山からの夜景はロマンティック

丘陵地に広がるのは、星くずをちりばめたような光粒群。湾の入り口にはライトアップされた女神大橋があります。海と空に広がる漆黒の闇と光の対比を心ゆくまで堪能できます。

びいどろの瑠璃色、唐寺のベンガラ色、玉子サンドの黄色、光粒をちりばめた夜景の漆黒色。さまざまな色で紡いだ長崎の旅は、美しいタペストリーとなって心に飾られました。
次回は、江戸時代に砂糖の輸入によって出現したシュガーロードをたどり、長崎の美味に出会う旅へと出かけます。

掲載している店舗・施設の詳細は
下記HPよりご確認いただけます。

瑠璃庵
http://www.rurian.com

山喜食品
https://yamakishokuhin.com

(掲載の情報は、2019年2月1日現在のものです)

取材後記 取材後記
瑠璃庵のガラス制作

瑠璃庵のガラス制作を引き継ぐ2代目・竹田礼人さんに作業工程を撮影させていただいたカット。本誌ではお見せできませんでしたが、実はぶらり日本見聞録のプレゼントにもなった「パインタンブラー」を作っていただいていました!
柄がつき、だんだんと形がわかってきた時には思わず「わぁ~」っと感激しちゃいました。

手作り体験で使用される材料

修学旅行生などに人気がある、手作り体験で使用される材料。
色・柄ともによりどりみどりでとっても素敵でした。

お魚型の木魚

崇福寺で、集合の合図の時に使われていたお魚型の木魚。今はもう使われていないそうですが、ぶら下がっている大きなお魚に癒されました。

細かな装飾

境内は細かな装飾がとっても魅力的だったので、訪れた際にはぜひ隅々までチェックしてみてくださいね!

山喜食品

山喜食品では、目の前で見事な玉子焼きができるたびによだれが…笑

森園公園

長崎空港の近くにある、「森園公園」にフライト前に寄り道。ここは大村湾の水質を改善するためにシーグラスで砂浜を作ったそうです。お天気がいい時にはキラキラと反射する光がキレイで、まさにインスタ映えでした!