富士の美と恵みを
味わい尽くす初春の旅

山梨・富士河口湖/富士吉田

CedynaNews 2019年1月号より

新しい元号に変わる年をおめでたく迎えようと、霊峰富士をめぐる旅にでかけました。富士に魅せられた染色家の美術館、山麓の恵みを生かしたグルメを楽しみます。

目的地に近づくにつれ、富士の雄大な姿に心が浮き立つのが感じられます。
特に冬は、澄み切った青空を背景に純白の雪をまとった姿がひときわ美しく見える季節。

清澄な水をたたえた湖面と雄大な富士の眺めが素晴らしい河口湖から、新年の旅を始めてみることにしました。

いにしえより「神々の棲む山」と崇められてきた、霊峰富士。その唯一無二の美しさは、詩歌に詠まれ、絵画として描かれ、古今東西さまざまな芸術家の心をとらえてきました。

《薀》2004年 制作:一竹工房 広大な松林に囲まれ、凛々しく聳え立つ冬の富士山を描いた作品

《薀》2004年 制作:一竹工房
広大な松林に囲まれ、凛々しく聳え立つ冬の富士山を描いた作品

その中の一人に、染色家の久保田一竹がいます。

室町時代に生まれた紋様染め「辻󠄀が花」を現代に息づく染め物として再現した一竹が、河口湖と富士を望むこの地に築いたのが「久保田一竹美術館」。ミシュランの観光ガイドでも、富士山そのものと並んで星3つの高評価を得た河口湖の名スポットです。

繊細な絞りや染めを
目前に観賞できる喜び

インドから移築した門

インドから移築した門

伝統的な日本の着物を観賞する施設でありながら、敷地に点在する異国情緒にあふれる建物にまずは驚かされます。

「湖畔の敷地を生かした庭も建物のデザインも、訪れた人に安らぎと潤いを感じてもらうため久保田一竹が考えたものです」と教えてくれたのは、館長の高村文彦さんです。

琉球石灰岩の円柱で支えられた、特徴的な造りの「新館」

琉球石灰岩の円柱で支えられた、特徴的な造りの「新館」

作品を展示する本館は、富士山をイメージして樹齢千年を超すヒバの大黒柱をピラミッド型に組み上げた、壮麗な吹き抜けの空間。

そこで驚かされたのは、富士をテーマに四季折々の雄大な景色を描いた圧巻の作品群をはじめ、繊細な絞りと精妙な色彩を持つ作品の数々が、ガラスケースにも入れられず目の前で観賞できることでした。

「作品を心配する声もあったようですが、一竹は『着物は生活の中にあるものだから』と、あえてそのまま展示したと聞いています」

自然光が取り入れられ、見る時間によって着物の表情の変化が楽しめる

自然光が取り入れられ、見る時間によって着物の表情の変化が楽しめる

20歳の時に博物館で見た辻󠄀が花染めの小裂(こぎれ)に魅せられ、技法も文献も遺されていなかった幻の技法を復活させようと研究を重ねてきた一竹。


「古典的な辻󠄀が花染めを思わせる『侘びさび』の色合いに染めた、初期の作品。国内外の美術館で観賞されるようになって、より鮮やかで絵画的な表現で描かれた晩年の作品。そうした違いを楽しんでいただくのも面白いと思います」


本館の一角には、一竹が親しい人を招くのに使った部屋が、茶房「一竹庵」として公開されています。

本館にある茶房「一竹庵」では、庭園を眺めながら和菓子やお抹茶がいただける

本館にある茶房「一竹庵」では、庭園を眺めながら和菓子やお抹茶がいただける

庭に面した窓際に座ると、ちょうど目の高さに池の水面が眺められるように設計された空間は、時の経つのも忘れるほどの心地よさ。

季節の和菓子と抹茶をゆっくり味わってから展示室に戻ると、吹き抜けから射しこむ光が微妙に角度を変え、作品の色彩や絞りの表現が、先ほどとはまた違って見えるのも印象的でした。

旬の野菜と
自家製味噌でいただく
「ほうとう」

帰り道に立ち寄ったのは、古民家の風情がただよう落ちついた店内で、山梨の郷土料理がいただける「富士の茶屋」です。

「富士の茶屋」の外観

「富士の茶屋」の外観

地元の農場が運営するお店ということで、「とれたての野菜や無添加の自家製味噌が味の決め手です」と店長の飯島康人さん。おすすめの「野菜ほうとう」は、旬の大根や白菜のほか、人参、かぼちゃなどがたっぷり入った優しい味。


そこへ、麦麹と米麹を使った甲州味噌がまろやかな甘みと旨みを加えています。

野菜ほうとうと、季節野菜の天ぷら、小鉢料理やサラダなどをセットで楽しめる「野菜ほうとう御膳」

野菜ほうとうと、季節野菜の天ぷら、小鉢料理やサラダなどをセットで楽しめる「野菜ほうとう御膳」(税込1,680円)

「料理に使う水は、すべて敷地の地下160mから汲み上げた富士の天然水。食後のコーヒーもぜひ楽しんでみてください」と飯島さん。

敷地内に湧き出る水を、おみやげに汲んで帰る人も多いそうです。

すべての料理や飲み物で、地下から汲み上げた富士の天然水を使っている

すべての料理や飲み物で、地下から汲み上げた富士の天然水を使っている

心が洗われる自然の景観、その美を取り込んだ芸術作品、そして山麓の恵みを味わう料理。富士を五感で楽しんだ旅でした。

久保田一竹プロフィール

(1917~2003)染色家

室町時代に栄え江戸時代初期に途絶えた染色技法「辻󠄀が花」を、独自の染色技法「一竹辻󠄀が花」として蘇らせた染色家。1977年に行った初の個展以来、世界各国で個展を開催。1990年の「フランス芸術文化勲章シュヴァリエ」受章、1993年の「文化庁長官賞」受賞など、功績は国内外で高い評価を獲得した。久保田一竹亡き後、この精緻な「匠の技」は二代 久保田一竹(久保田敏)氏に受け継がれ、今もなお多くの人々を魅了し続けている。

協力:(株)一竹辻󠄀が花

掲載している店舗・施設の詳細は
下記HPよりご確認いただけます。

久保田一竹美術館
http://www.itchiku-museum.com

富士の茶屋
http://fujinochaya.com
※冬季休業:1月15日〜3月中旬

(掲載の情報は、2018年12月1日現在のものです)

取材後記 取材後記
河口湖駅ホームのカラーコーン

河口湖駅のホームでは、遊び心溢れるカラーコーンと出会いました。駅員さん、ナイスセンスです!

「久保田一竹美術館」館長の高村さんにお話を伺っているひとコマ

「久保田一竹美術館」館長の高村さんにお話を伺っているひとコマ。ガラスケースに入れない展示方法は、作品を間近に見ることができるほか、その圧倒的な熱量に大変感動します。

また、取材中館内で見かけたのは外国の方々ばかりでした。海外からも注目度が高いようですよ!

富士をイメージして建てられた展示室の吹き抜け

富士をイメージして建てられた展示室の中央を見上げると、吹き抜けを発見!!ここから自然光が入り、時間によって作品に様々な陰影をつけるそうです

《桜水鏡(さくらみずかがみ)》2007年

宝塚歌劇ファンの方にはたまらない作品も展示してありましたよー!


《桜水鏡(さくらみずかがみ)》2007年
宝塚歌劇の公演「さくら」の衣裳として制作された「さくら4部作」の1つで、遠野あすかさんが着用した作品。揺らめく水面に映る桜花の賑わいが描かれ、ローズレッドから京紫色への階調を施した背景色で華やかさを演出している。

「富士の茶屋」のテラス席

「富士の茶屋」にはテラス席があり、気持ちの良い天気の時はテラス席でお庭を眺めつつ、ほっかほかの「ほうとう」をいただくのも…良いですね~。

ちなみに、テラス席はペット同伴OKだそうですよ!

淡水魚「甲斐サーモンレッド」のお刺身

山梨では、富士の天然水を使用して養殖が行われている淡水魚「甲斐サーモンレッド」も有名なので、ぜひ味わってみてくださいね!