伝統と現代が
アートで交わる金沢の旅

石川・金沢

CedynaNews 2018年10月号より

加賀百万石の歴史が育んだ伝統工芸と、現代の息吹を感じるアートがともに息づく街・金沢。

加賀百万石の歴史が育んだ伝統工芸と、現代の息吹を感じるアートがともに息づく街・金沢。グルメも体験も町歩きも楽しめる人気の観光都市を、味わい尽くす旅にでかけましょう。

新幹線を降りて改札を抜けると、約3000枚のガラスが傘のように広がる「もてなしドーム」と、松材をらせん状に組み上げた荘厳な「鼓門」が出迎えてくれます。

和傘や能の鼓といった伝統的なモチーフと現代アートが溶け合ったJR金沢駅は、美と文化の街にふさわしい旅の玄関口といえるでしょう。

金沢駅前の「鼓門」

金沢駅前の「鼓門」

加賀百万石の城下町として栄えた金沢は、さまざまな伝統工芸が息づいています。それは加賀藩を300年以上にわたって治めた前田家が、武士だけでなく庶民にも能や茶道に励むよううながし、それに使われる衣装や小物、茶器が盛んに作られてきたからだそうです。

加賀友禅、金沢箔、加賀繍、九谷焼など。金沢の伝統工芸品は、質実な武家の精神に軽やかな町民の遊び心を加えた、独特の魅力を現代に伝えています。

母から子に伝えた技
加賀ゆびぬきを体験

毬(まり)屋外観

毬(まり)屋外観

その中の一つ、加賀てまりと加賀ゆびぬきの専門店・毬屋を訪ねました。

江戸時代、加賀藩主へ嫁いだ徳川家の姫君が持参した手毬がルーツといわれる加賀てまり。

「金沢では、娘が結婚する時に幸せを願って持たせる風習があるんですよ」と、毬屋の大西由紀子さんが教えてくれました。

加賀ゆびぬきは、家庭で和服を縫う時に残った絹糸を集めて、指輪のような土台に美しく縫いとめて作った実用品でした。

「各家庭で、母から子へ作り方が伝えられてきました」と大西さん。

戦後になって作る人も少なくなる中で、大西さんの祖母である小出つや子さんが旧家に残る手作りのゆびぬきを訪ね歩いて作り方を解明し、自らも多くの図案を考案して多くの図面に残してくれたそうです。

ゆびぬきの一日体験教室に参加

ゆびぬきの一日体験教室に参加

毬屋では作品を購入できるほか、一日体験教室も開かれています。

今回はベーシックな柄の「2色うろこ」に挑戦。

まずは店内に飾られた200色以上の絹糸から、迷いに迷って2色を選びました。続いて自分の指に合わせて輪にした布に、薄く伸ばした真綿を巻いて土台を作ります。

針を刺す位置に細かく印をつけたり、糸がからまないように気をつけたりと、手仕事の基礎となるような注意点もいろいろ。

「縫い物の上達を願って、お雛様の飾りにする家もあったようです」という大西さんの言葉にも納得です。

土台を作り、自分好みの絹糸で縫いとめていく。淡々と針を進めるごとに美しい模様が現れてくる

土台を作り、自分好みの絹糸で縫いとめていく。淡々と針を進めるごとに美しい模様が現れてくる

体験は2時間で終了。
残りの作業を自分で進められるセットをお土産にいただいて、お店を後にしました。

お店に置かれている「2色うろこ」の完成品

お店に置かれている「2色うろこ」の完成品

まちに開かれた
現代アートの美術館

次に訪れたのは、「まちに開かれた公園のような美術館」を建築コンセプトに誕生した、金沢21世紀美術館。

独特の円形の建物から「まるびぃ」の愛称で親しまれる現代アートの美術館です。
有料の展覧会ゾーン以外は、朝9時から夜10時まで通り抜け自由の交流ゾーンとして解放され、通勤や通学の途中に立ち寄る市民も多いのだとか。

レアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》2004年

レアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》2004年 金沢21世紀美術館蔵 撮影:渡邉修 写真提供:金沢21世紀美術館

展示作品であるレアンドロ・エルリッヒの『スイミング・プール』は、1階のプールから見下ろす人と、地下から透明なガラス越しに水面を見上げる人が手を振り合ったりと、見知らぬ者同士がコミュニケーションを楽しむことができます。

今年秋に開かれる展覧会「変容する家」では、金沢市内の住宅地でもアーティストが作品を発表する予定とのこと。
アートが美術館を飛び出して、金沢の街に新たな魅力を与えてくれそうです。

江戸時代のお茶屋で
現代作家の器(うつわ)に触れる

昼食は、昔ながらの風情を残すひがし茶屋街へ。

十月亭(じゅうがつや)外観

十月亭(じゅうがつや)外観

江戸末期に建てられたお茶屋を改装したという十月亭は、本格的な懐石料理や金沢の郷土料理を味わえるお店です。店内には、足を下ろして座れる大きなカウンターテーブルのほか、四季折々の眺めが楽しめる畳敷きの個室もあります。

ランチで人気の竹かご弁当は、繊細な竹かごの中に、金沢の四季を閉じ込めたような彩りゆたかな献立。セットでいただいた治部煮の柔らかな肉と滋味あふれる野菜の味わいにも伝統の奥深さを感じました。

旬の食材を盛り込み、色鮮やかに仕上げられた「竹かご弁当(治部煮付き)」

旬の食材を盛り込み、色鮮やかに仕上げられた「竹かご弁当(治部煮付き)」

甘味タイムに頼んだケーキセットには、地元金沢で活躍する作家集団secca(セッカ)の食器が使われています。

十月亭の空間に合わせて作られたというオリジナルの器は、シンプルなデザインでありながら、石のような不思議な手触りや渋い色合いが面白い作品。金沢の職人ならではの美意識が感じられ、「何の素材が使われているんだろう」と、しばし会話がはずみました。

甘味タイムには、secca の器にのったケーキセットが楽しめる

甘味タイムには、seccaの器にのったケーキセットが楽しめる

伝統をただ大事に守って受け継ぐだけでなく、今を生きる人たちが暮らしの中で楽しんでいる姿がとても印象的だった金沢。
驚きと発見で五感を刺激される旅の喜びを、たっぷりと味わうことができました。

掲載している店舗・施設の詳細は
下記HPよりご確認いただけます。

加賀てまり毬屋
https://kagatemari.com

金沢21世紀美術館
https://www.kanazawa21.jp

(掲載の情報は、2018年9月1日現在のものです)

取材後記 取材後記

ゆびぬきの体験では、色数が豊富な台紙と糸を見ながら、「どれも可愛くて選べな〜いっ!」と、しばし盛り上がりました。初心者にも丁寧に説明してくださる大西さんのレクチャーのもと、作業を進めていきます。私に変わり、細やかな作業をひたすら頑張ってくれたライターさんにあっぱれです!

大西さんの作品の中から、大西さんと取材チームで選抜したお気に入りの3つ!色使いがとっても素敵で思わずうっとり。

金沢で忘れちゃいけないのが「金沢おでん」。立ち寄らせていただいた「ちくわ」さんでは、練り物は手作りのものが多く、地産地消にこだわっているそうです。こだわりが感じられる、味が染みた練り物は最高でした!

本誌ではご紹介できませんでしたが、加賀友禅作家である由水十久(ゆうすいとく)さまの工房にも特別にお邪魔させていただきました。職人さんたちの真剣な表情、繊細な作業に背筋が伸び、わかると思わずクスッとしてしまう遊び心あふれるデザインや、美しい線画に大変感動しました。

10月10日(水)~10月16日(火)の期間中は、日本橋髙島屋S.C.本館の7階きものサロンにて特別展覧会が行われるそう!仕事の合間にこっそり抜け出して、由水十久さまの世界を味わってこようと思います。(笑)
ちなみに、13日(土)14日(日)の11時〜17時の間は由水十久さまが来場されるそうです!