秋田の県北エリアを満喫する夏の旅。今月は、秋田犬のふるさと・大館市と十和田湖をつなぐ緑豊かな樹海ラインをたどり、小坂町を訪ねました。
小坂町は、明治後期に鉱山の町として大きく発展をとげました。当時、通りにはオフィスビル、芝居小屋、総合病院など西洋風の建物が並び、鉄道や上水道設備などのインフラも整っていました。
全国から集まってきた人々がいきいきと働き、最先端の暮らしをしていたそうです。
「秋田県で初めて電力利用を開始したのも小坂鉱山です。夜になると煌々と明かりが灯るので、わざわざお弁当を持って見物に来る人もいたと聞いています」と教えてくださったのは、小坂まちづくり株式会社の髙橋さん。
小坂町では、その繁栄の歴史と明治のレトロモダンな景観を後世に伝えたいと、古いものを残す取り組みを少しずつ行ってきました。いくつかの建築物は、近代化産業遺産(※)に認定されていて、明治百年通りと名付けられた通りと、隣接する小坂鉄道レールパークで見学することができます。まずは、今もなお町のシンボルだという、小坂鉱山事務所に向かいました。
※日本の産業の近代化に貢献した建造物や機械などを、経済産業省が認定。端島(通称:軍艦島)、道後温泉本館などもこれにあたる。
西洋建築の粋を集めた
鉱山事務所
現在、鉱山資料館として活用されている小坂鉱山事務所(国重要文化財)は、天然秋田杉造りとされる木造3階建て。国から鉱山の払い下げを受けた藤田組が巨費を投じ、明治38年に完成した明治期を代表するオフィスビルです。
外観はルネサンス様式を基調に、イスラム風のバルコニー、イギリス風の窓など、諸国の建築様式のよい部分を取り入れて豪華に仕上げています。玄関ホールには当時珍しい木製の螺旋階段もあり、温かみのある優雅な佇まいが印象的です。
階段を上がった2階・3階は展示室で、小坂鉱山の歴史や関わった人物について知ることができます。
かつての所長室には、煙突から煙がたなびく、木々のない鉱山の風景画が飾られていました。
「これを見ると、環境に影響が出ていた様子が分かりますね。それでも小坂鉱山では、早い段階からさまざまな環境への取り組みを行っていたんですよ」と、髙橋さん。
その一環として、煙害に強いアカシアの植林が明治42年から開始されたそうです。その数およそ300万本。山は甦り、今やアカシア蜂蜜は小坂町の特産品になっています。1階の売店で試食させていただくと、枝に付く花の量が多いため他の花蜜が混ざりにくいそうで、透明感とすっきりとした味わいが格別でした。
世紀を超えて
今なお現役の康楽館
続いて、鉱山で働く従業員の厚生施設として造られた、明治43年建築の康楽館(国重要文化財)を訪ねました。
こちらは現在も毎年400回以上の公演が行われ、北東北を中心に全国から老若男女が集まる現役の芝居小屋です。
今年は特別公演として、中村橋之助改め八代目中村芝翫の襲名披露も行われました。
訪れた際には、黒子による館内ガイドを利用して、詳しい説明を聞きながら見てまわるのがおすすめです。
人力で動かす回り舞台の装置に驚いたり、壁や柱に残された明治期からの名優の落書きに感激したり、世紀を超えた小屋の歴史や雰囲気をより深く感じることができます。
「普段見ることができない奈落の見学は特に人気です。奈落体験=どん底を体験するという解釈で、あとは上がるだけという験担ぎをされる方もいらっしゃいます」と、ユニークな楽しみ方も教えていただきました。
鉄道遺産にワクワク
小坂鉄道レールパーク
次に髙橋さんが案内してくださった小坂鉄道レールパークは、鉄道遺産を活用した体験型の鉄道博物館です。
「小坂〜大館間を走っていた小坂鉄道は平成21年に廃線となってしまいましたが、明治42年建築の小坂駅舎が今も大切に保存されています。東京駅より古い駅舎ですよ」
素朴な白いペンキ塗りの木造駅舎(国登録有形文化財)が、まだ現役のような面持ちで出迎えてくれました。待合室や券売窓口、プラットホームへと続く改札口もそのままで、明治時代の乗客とすれ違ってもおかしくない雰囲気です。
資料展示室の機関車庫(国登録有形文化財)には、小坂鉄道で活躍した貴重な車両の数々が今でも動く状態で保存されていました。迫力あるその姿に、鉄道ファンならずとも、気分が高まります。
全国でも珍しい、ディーゼル機関車の運転体験(要予約)も、一度は試してみたいもの。駅構内路線の約500mを2往復できるそうです。
1970年から44年間、上野〜秋田・青森方面を走った懐かしの寝台特急「あけぼの」の客車もあり金・土曜日と夏休み期間には簡易宿泊施設としてオープン。運がよければ、宿泊客を乗せて駅構内を走るブルートレインに出会えるかもしれません。
施設内は、見学ルートにしたがって自由に見ることができますが、希望者にはガイド(要予約)もしてもらえます。
歩いてまわれるエリアに見どころが満載の小坂の旅。文化財級の建造物が歴史の生きた証人として、小坂鉱山が栄えた明治時代の雰囲気を垣間見せてくれました。
すぐ横を走る樹海ラインを北上すると発荷峠の展望台があり、そこから一気に広がる夏の十和田湖の絶景も見られます。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
(掲載の情報は、2018年7月1日現在のものです)
館長さんが紹介!
各スポットの魅力と秘密
今回、明治百年通りとレールパークを案内してくださったのは、全施設の館長を務めている小坂まちづくり株式会社の髙橋さん。建物の歴史から造りの特徴、こだわり、楽しみ方まで、丁寧に分かりやすく解説してくださいました。
今回特に時間をかけて楽しんだのは、資料館として使われている小坂鉱山事務所。館内には、模型や人形を用いて当時の様子を再現しているものなど、見応えある展示がたくさん!歴史を知るだけではなく、鉱山で繁栄していた明治期の雰囲気も味わうことができました。
細部まで見逃せない
こだわりの建築
小坂鉱山事務所は、豪華な装飾はもちろん、珍しい建築技術が盛り込まれていることも特徴!1〜3階に232つもあるという、「上げ下げ窓」もその一つです。左右の窓枠に同じ重さのバランサーという重りが内蔵されていて、どこでも留まるようなっているのだとか。また、窓の外側に施された「ペディメント(窓飾り)」も鮮やかで美しく、印象的でした。木製で色が剥げやすいため、こまめに塗り足しをしているそうです。
髙橋さんの一押しスポットを伺ってみると、「町を広く見渡せて、皇族のような気分になれるバルコニーが私のお気に入りですね」と教えてくださいました。実際に外に出てみると、とても気持ちが良く、景色の中には小坂川の清流も見えました。そんなバルコニーに架かっている、立派な屋根部分にも特徴が。「杉板菱葺き」という工法が使われているそうで、 小さな菱形の秋田杉の木材を繊細に重ねて造られていました。
間近で楽しめる、
大迫力の車両たち
最後に案内していただいたレールパークでは、機関車庫に並ぶ個性ある車両の数々に大興奮!なかでも、国内に4両しかないという緑色のラッセル車は迫力満点でした。まだ動く現役の車両で、後ろからディーゼル機関車で押して走らせるのだそうです。専門家が関わりながら整備を行っているなど、常に動ける状態で保存し続けるための工夫や努力も教えていただきました。
今回の旅のまとめ
小坂町の取材を行ったのは、寒いけれど、きれいな青空が広がる晴天の日!秋田犬とふれあった大館市の旅と同じ取材の中で訪れました。当日は、髙橋さんをはじめ各施設の職員の方々がとても手厚くご協力してくださり、その温かさに一同で感激!お力添えいただいたおかげで、より深い情報を得ることができたり、色々な場所を撮影できたりと、内容はどんどん充実。終始ワクワクしながら取材を進め、大満足で終えることができました。小坂町の皆様、本当にありがとうございました。まるで明治にタイムスリップしたような気分で、のんびりとした時間を楽しめる秋田県・小坂町。ぜひ、一度訪れてみてくださいね。次回もお楽しみに!
掲載している店舗・施設の詳細は
下記HPよりご確認いただけます。
小坂まちづくり株式会社
http://kosaka-mco.com
取材日:2018年3月某日