Cedyna News for Premium Members 8月号より

日本が世界に誇る浮世絵師・葛飾北斎。代表作「冨嶽三十六景」が次期パスポートの中面に、またその中の「神奈川沖浪裏」が新千円札の裏面の絵柄に採用されたニュースは大きな関心を集めました。
北斎は隅田川が流れる“すみだ界隈”で生まれ、90 回以上の引っ越しを繰り返しながら生涯のほとんどをこの地で過ごし、多くの名作を残したことで知られています。
昔も今もモノづくりが盛んで、町を歩けば北斎をモチーフにした、さまざまなものに出会えます。没後170年にあたる今年、さらなる北斎の魅力を探しに出かけましょう。

北斎の造詣が深まる
すみだ北斎美術館

すみだ北斎美術館

「すみだ北斎美術館」は世界的建築家・妹島和世の設計。正面がなく、四方どこからでも入館できる

最初に訪ねたのは、北斎生誕の地といわれる本所割下水(現・亀沢)に立つ「すみだ北斎美術館」。常設展示室の入り口に掲げられた「須佐之男命厄神退治之図」(推定復元)が、迫力ある美しさで迎えてくれます。

須佐之男命厄神退治之図

彩り豊かに復元された「須佐之男命厄神退治之図」(推定復元)

「これは北斎が晩年、向島の牛嶋神社に奉納するために描いた肉筆の大絵馬で、地元との強い繋がりが感じられる大作です。オリジナルは関東大震災で焼失してしまいましたが、明治時代の白黒写真をもとに現代の技術で推定復元することができました」とお話しくださるのは、学芸員の長谷川さん。

常設展示室

脆弱な浮世絵は長期間の展示に向かないため、常設展示室の作品はすべて実物大高精細レプリカ

常設展示では、「習作の時代」から晩年の「肉筆画の時代」までを7つに区切り、各時代の代表作をタッチパネルモニタによる解説などで丁寧に紹介しています。

タッチパネル「北斎絵手本大図鑑」

『北斎漫画』などを解説した、タッチパネル「北斎絵手本大図鑑」

90歳で亡くなるまで、とにかく長い時間をかけて多くの作品を描き続けた北斎。時代ごとに変わっていく画風に思わず引き込まれ、夢中になってその生涯をたどりました。

北斎のアトリエ

娘・阿栄(おえい)と暮らす晩年の様子を再現した「北斎のアトリエ」

墨田区では、北斎が浮世絵の画題として描いた場所16カ所に案内板を設置しているので、散策の途中に今と昔を見比べてみるのも一興です。

北斎とコラボレーションした
すみだの職人技

革を加工・製品化する工房を構える「紗蔵」では、北斎の浮世絵をプリントした小物入れやパスケースに出会えます。

「北斎シリーズ」の革小物

熟練の職人が1 点1 点仕上げる「北斎シリーズ」の革小物

代表の和久さんは、「地場産業である豚革を使った革製品で、すみだのモノづくりを世界に発信しています。豚革は柔らかくて繊細で、製品にするのに手間がかかる素材だけど、いただいた命をすべて使い切ることを大切にしたいんです」といいます。確かな技術力とこだわりが、北斎シリーズの魅力を高めていると知りました。

和久さん

和久さんは北斎シリーズの製品開発を続けている

工房では定期的にワークショップも行われています。多彩な革素材を組み合わせて作る自分だけの革小物は、旅のよい思い出になるでしょう。

屋形船「北斎」で
夜の隅田川を回遊

夜は、江戸末期創業の船宿「深川冨士見」が所有する国内最大級の屋形船「北斎」で、隅田川から東京湾へとくり出します。

東京スカイツリーと屋形船「北斎」

東京スカイツリーと、屋形船「北斎」。船内は広々としており、掘りごたつスタイルなのでゆったりくつろげる

船名の由来について「葛飾北斎には、うちの屋号にも通じる富士山を描いた浮世絵が多く、この辺にも住んでいて関連性が高かったので」と、六代目が教えてくださいました。

六代目

「北斎作品の迫力や力強さに魅力を感じる」という六代目

冨嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」や『北斎漫画』といった作品を、この船仕様にアレンジして描いた浮世絵も複数展示されていて、船内を彩ります。

船内の浮世絵展示

「神奈川沖浪裏」の荒波の中を進む「北斎」が描かれている

一品ずつ揚げたてで提供される天ぷらに舌鼓を打ちながら、江戸の面影が残る隅田川を上り、東京スカイツリーを眺めます。お台場での停泊時間に展望デッキへ出ると、昼間の暑さを忘れるような心地よい海風が頬をなでます。東京湾の夜景はキラキラとまたたいて、水面まで輝かせていました。

屋形船と夜景

夏の屋形船は夜がいい。海風を感じながら夜景を楽しめる

北斎をテーマとした今回の旅。北斎への親しみが増すとともに、すみだを訪ね歩くことで、江戸の粋も感じることができました。

掲載している店舗・施設の詳細は
下記HPよりご確認いただけます。

すみだ北斎美術館
https://hokusai-museum.jp

株式会社 SAKURAWAQS(紗蔵)
http://leather-handmade.com

屋形船 深川冨士見
https://www.f-fujimi.co.jp

すみだ観光サイト
http://visit-sumida.jp/

(掲載の情報は、2019年7月1日現在のものです)

取材後記 取材後記

すみだ界隈の取材はゴールデンウィーク直前の4月終わりごろに、合計3日に分けて行いました。
初日は紗蔵の和久さんの元へ。北斎シリーズ以外にも、男女問わず使えるスタイリッシュな革製品がたくさんありました。

スタイリッシュな革製品

午後からは屋形船「北斎」を所有している深川冨士見さんの取材。北斎の取材だからと、『神奈川沖浪裏』Tシャツに着替えてきてくれました。

深川冨士見さん

しかも撮影のために座布団を並べるのを率先して手伝ってくれる六代目。

座布団を並べる六代目

なんていい人!!

そして二日目には墨田区観光協会で墨田区の見所を教えていただきました。8月上旬に旧安田庭園で開催される「納涼の夕べ」や、10日の隅田川とうろう流しなど、イベントが盛りだくさん!夏への期待が高まります。

森山理事長

墨田区観光協会の森山理事長

また、墨田区といえば「モノづくりのまち」。東京スカイツリータウンの「産業観光プラザ すみだ まち処」で毎日13時から、市松人形や江戸木箸などの伝統工芸を週替わりで実演しているそうです。

実演ステージ

実演ステージ。職人の技を間近で見ることができます

その後はすみだ北斎美術館へ。
手元のパネルで選んだ映像が目の前の壁に映し出されるなど、面白い仕掛けがたくさん。素人な私は、浮世絵は木版を彫って一色ずつ摺り重ねていくという大変な作業であることをここで初めて知り、改めて北斎の浮世絵を眺めると、絵の緻密さや色使いに感動。取材はライターさんに任せてタッチパネルと作品に夢中になっていました。

北斎美術館

最終日は夜景の撮影。屋形船が東京スカイツリーに向かっていく姿を収めるため、明るいうちにスタンバイ。

撮影スタンバイ

この日は4月の終わりだというのに冷たい風が容赦なく吹き付けるので、フードを被って少しでも温もりを得つつ、日が暮れるのを待ちます。

夜景撮影

待望の夜景をしっかり収め、悔いなくゴールデンウィークを迎えることができました。連休前の忙しい時期にもかかわらず、取材に対応していただいた方々に感謝です!